読売新聞社が15日朝刊で掲載した「皇統の安定 現実策を」と題する4項目の提言が、読売らしからぬとんでもないものだと話題が沸騰している。といっても、朝日以下の「左翼」紙では一行も触れられておらず産経と一部政党の幹部の間で沸騰している段階なので、わからない人もあろう。

読売の提言と言うのは要約すると①皇統の存続を最優先にする②象徴天皇制は維持すべき③女性宮家の創設を求める④その夫・子も皇族に加える――というものだ。①と②は従来通りの路線だが問題は③と④である。皇室の歴史に前例のない女系天皇誕生に道を開く女性宮家創設を訴えるもので、従来の読売路線とは明らかに違っていた。
長島昭久首相補佐官は「何とも面妖な紙面でした。朝日新聞かと思わず二度見してしまいました。共産党と立憲民主党以外の8会派が合意している『男系継承原則の堅持、女性皇族の民間人配偶者および子は皇籍を認めない』との基本的な考え方を否定するような提言を大々的に打ち出す意図は奈辺にあるのでしょうか」と衝撃のほどを述べれば、国民民主党の玉木雄一郎代表もXで「このタイミングで出してきた背景が気になる」といぶかう。

旧皇族の竹田家出身で明治天皇の玄孫(やしゃご)にあたる作家、竹田恒泰氏が産経新聞の緊急インタビューに応じ、読売の「将来的な女系天皇の可能性も排除することなく、議論の着地点を模索してほしい」との主張に「国家の礎を危うくしかねない」と断言する。
氏は読売の提言は、皇室のご公務の担い手不足につながる「皇族数が減少している」という問題と、皇位継承者の資格者がいなくなるという「皇族の中で男系男子が少なくなっている」という問題はそれぞれ独立している。この別の話をいっしょくたにしているところが問題だ。
ご公務の担い手をどう確保するかという問題について、読売新聞は女性宮家まで創設して、その夫や子も皇族にすべきという。だが、女性皇族がご結婚され、民間人となった後も、ほぼすべてのご公務を継続することができる。例えば、英国とゆかりの深い女性皇族がご結婚されたとしても、英国王室を招いた宮中晩さん会においでいただいてもいいし、公的団体の名誉総裁を務められることも可能だ。読売新聞の記事では、民間人になったらご公務ができないような前提に立っているが、その前提は事実と異なっている。
宮中祭祀(さいし)については、竹原興社会部長名で「女性皇族の離脱を食い止めなければ、国民の幸せを祈る祭祀や海外訪問を通じた国際親善などを担う方もいなくなってしまう」と書かれている。しかし、宮中祭祀は天皇陛下お一人で完結するものだ。竹原氏の認識は根本的に間違っている。
政府の有識者会議が令和3年の報告書で示した、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する▽旧宮家の男系男子が養子縁組で皇室にする復帰する-という案について、記事は養子縁組を「これまで一般人として生活してきた人が皇族になることへの国民の理解が得られるかどうかなど、不安視する声も少なくない。慎重に検討する必要がある」と指摘する。ところが、提言では女性皇族の「夫・子も皇族に」といっており、明らかに矛盾している。
さらに上皇后陛下、皇后陛下をはじめとする民間出身の女性皇族にも失礼だ。民間人として生まれ、皇族となって立派に役割を果たしてこられた。民間から嫁がれた女性皇族に対する冒涜でしかない。
もし、女性皇族の結婚相手が「国民的に好感度の高い男性」だとしたら、その間に生まれた男の子を「皇位継承者にすべきではないか」という意見が出てくるだろう。例えば、大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手やフィギュアスケート男子の羽生結弦さんのようなスーパースターだ。
つまり皇族の中に皇位継承を担える男子と、担えない男子が混在することになり、20~30年後に「男性皇族の男子には皇位継承権はあるのに、女性皇族が結婚して生まれた男の子に皇位継承権がないというのは差別だ」という話になりかねない。女性皇族の結婚相手が好感度の高い男性だったら世論の8~9割が賛成して、なし崩し的に皇統の断絶につながる「女系天皇」が生まれる可能性がある。皇統を守るというのであれば、将来爆発するような「時限爆弾」を今から設置するというようなことはやめてほしい。
「皇統の存続を最優先に」としながら、女系天皇を容認するような読売新聞社の提言は、皇統の存続につながらない。
天皇の男系の血筋のことを「皇統」と呼び、それを受け継がない天皇が成立すれば皇統とは言わない。読売新聞の提言は「歴史的に天皇になれない人にまで天皇の範囲を広げてもいいのではないか」と言おうとしているように見える。
読売新聞社の提言通り、女性宮家を創設して子供が生まれ、その子供が天皇に即位したらどうなるか。ある人は「私は天皇として認めます」と言うだろうし、別の人は「男系の血筋を引かないものは天皇ではなく私は認めない」という人も出てくるだろう。
日本国憲法は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と定めている。一部の人が認める、一部の人は認めないという天皇がどうやって「日本国民統合の象徴」としての役割を果たせるのか。
読売新聞社の提言は「血統はどうでもいい。それでも国民に寄り添える人がいればいいのだ。これまで天皇になれない人も天皇にしてしまえ」という乱暴さを感じる。国家の礎を危うくする提言であり、とても承服できるものではない。現状認識もずさんで、同じ日本人として恥ずかしさを感じる。
有識者会議の提言で示された「養子案」をしっかり実行すれば、皇族や宮家の数だけでなく、皇統を担える男系男子も確保することができる。危険性のある女性宮家の創設などではなく、養子案を進めることが皇統を守るために選択する道だ。
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竹田恒泰氏の意見に集約されているから、この問題はひとまず措く。読売新聞についてはいささか内部事情に通じているので、以下にブログ子の見方を書く。
マスコミでは「読売」「産経」が”右”で「朝日」「毎日」が”左”で通っている。しかし実際はそうでもなくて読売、産経の中にも左翼人種はいる。ブログ子が在社した産経で言えば、以前オウム評論家でならした江川紹子は父親が整理部長をしていた産経に入社しようとしたが、入れずに神奈川新聞に入った。父親は確認は取れていないが共産党員で反産経労働運動を繰り返していた人物だったからだ。

読売でも同じだが、こちらは、左右とは別の「ナベツネ」という強力な壁が存在した。渡辺恒雄氏は2024年12月19日、98歳で死去、今年2月25日盛大なお別れ会が帝国ホテルで開かれたばかりだ。生涯「主筆」の座を渡さず毎日自社の論説をチェックしていたほど矍鑠としていたものだ。元共産党員だけに反共思想は堅固で他の批判を許さぬものがあった。だが、強力な読売の「箍」(たが)が外れて、内在していた不満分子がうごめきだしたのではないか、というのが私の見立てである。
昔話になるがブログ子は大学を卒業して新聞社を受験した。旅行で遅れて9月に入って応募できた読売と産経に願書を出して2社とも合格した。どちらにしようかとなった時なんの情報も持ち合わせていないので母が知り合いの関西文壇を仕切っていた作家に相談したところ、「読売は派閥がひどい、親分コケたら一巻の終わりだ。産経にはそれがない」と言われて産経に決めた。
余談だが、このとき読売大阪社会部長だった黒田清から母に電話があり「ほかの社も受かっているかもしれないがぜひ読売に来るように」と電話があったそうだが、本人は札幌の下宿に戻ったあとだった。

テレビで時折、大谷昭宏というコメンテーターを見かける。この人は読売大阪社会部で黒田軍団にいた人で警察や釜ヶ崎担当などそっくりブログ子と同じ軌跡をたどった人なのだが、黒田が当時、取締役論説委員長で主筆である渡邉恒雄との社内政治対立から大阪読売を退社した際、行動を共にした人で、もし読売に入っていたら同じようにナベツネと対抗して干されてテレビコメンテーターでもしていたかもしれないとの思いで拝見している。
読売の派閥と言うのはナベツネ傘下の政治部以外はみな排除された。排除されたか自分で退社したかの死屍累々は数知れず。例えば産経の外信部など部長もデスクもパリ支局長もみな読売退社組だった時があるほどだ。
そんなことから今回の女系天皇論をめぐる読売の奇想天外の提言をみて、ナベツネ亡きあと、いろんな派閥が一斉に蠕動し始めたのではないか、と見た次第。