トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がワシントンで会談したものの、激しい口論になり、協議は決裂し予定されていたウクライナの希少資源に関する協定への署名も共同記者会見もキャンセルされた。その一部始終を、1日早朝のテレビ中継で見た感想が表題だ。
ご承知のとおりブログ子は、「それでもトランプでいいこともある」と書いてきた。LGBTや女権などで大声をあげてきたリベラル左派が「アメリカの性は男か女か2つだけだ」の一言で鎮静化したことを評価したからだ。しかし、今回は違う。ロシアのプーチン大統領が一方的に侵略し、為に命を懸けて戦っているウクライナという小国の大統領をワシントンに呼びつけたうえ、罵倒しこれまで続けてきた軍事支援を打ち切ると恐喝する残酷な仕打ちをテレビ中継で世界に見せつけたのだ。

土台、戦争当事国のウクライナを除外して米ロ二国で和平に持ち込むという策が許されるのかという問題がある。実は残念ながら前例がある.。1945年2月にウクライナのヤルタにアメリカ・イギリス・ソ連の3か国の首脳が集まり、第二次世界大戦の終結に向けた戦略を調整し、ヤルタ協定を結んだ。
ドイツの非軍事化、米英ソ仏による4カ国の分割占領、ソ連(ロシア)が樺太の南部と千島列島を獲得すること、国際連合の設立を戦争当事国のドイツ、日本、イタリアを省いて決めた。悲しいかな、戦争の事後処理と言うものは勝者の理論で決まるのが世界史の現実なのだ。
これに加えてトランプ独特の性格がある。ニューヨーク・タイムズによると、会談の数時間前、共和党のリンゼー・グラム上院議員がゼレンスキー大統領にこうアドバイスをしていた。
「安全保障について議論してはいけません」
安全保障はウクライナにとって合意を得たい最大の内容だが、トランプ大統領にとっては聞きたくないものだ。切れたら何をするかわからない性格だから触れるなと言うアドバイスだった。
「招待してくれてありがとうございます。この最初の文書がウクライナにとって、子どもたちにとって、本当の安全保障への一歩になることを願っています」
会談が始まってからわずか3分でゼレンスキーは問題の安全保障に言及し、その後も安全の確約の必要性を訴え続けた。これが、もとからウクライナ支援に否定的なトランプ大統領とバンス副大統領を刺激した。ゼレンスキーのまずかった点だと書いている。
事実、テレビを見ていたが、バンスが火付け役だった。ただし、これはゼレンスキーでなく記者からの質問に反応したものだった。ある記者が「トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と同じ立場なのか」と尋ねた時、バンスは我慢の限界に達したのか、バンス氏はトランプ氏の外交戦略を擁護する形で割り込み、以下のような展開になった。
【バンス】 米国には4年間にわたりプーチン氏に強硬な発言をする(バイデン)大統領がいた。平和と繁栄への道とは、外交に関与することだ。まさにトランプ氏が行っていることだ。
【ゼレンスキー】 彼は、2014年からウクライナの東部の一部とクリミアを占領している。バイデン政権下だけではない。(この間の歴代米大統領は)オバマ、トランプ、バイデン、そしてまたトランプ氏だ。今、トランプ氏がプーチンを止めてくれるであろうことを神に感謝したい。ただ、14年には彼を止めてくれる人はいなかった。ウクライナ領を奪い、人を殺した。
【トランプ】 14年に私はここにいなかった。
【ゼレンスキー】 そうだが、14年から22年まで、前線で人々が死んでいく状況は同じだった。彼(プーチン氏)を止める人はいなかった。我々は彼とも多くの対話を行った。私もあなたのように取引を行い、19年に仏独の首脳を交えて停戦の協定に署名した。全員が私に「彼は決してもう戦争をしない」と言ったが、彼は停戦を破り、私たちの国民を殺し、捕虜の交換にも応じなかった。
【バンス】 私が言っている外交とは、あなたの国が破壊されるのを止めることだ。この大統領執務室にやってきて、米国のメディアの前でそのような訴えをするのは失礼だ。ウクライナは人手が足りず、徴集兵を前線に駆り出している。トランプ氏がこの紛争を終わらせようとしていることに感謝するべきだ。
【ゼレンスキー】 あなたはウクライナに来て、我々が抱えている問題を実際に見たことがあるのか。一度来たらいい。
【トランプ】 我々がどう感じるか言われる筋合いはない。我々は問題を解決しようとしているのだ。あなたは我々に指図する立場にない。あなたは今、非常に悪い状況にある。切ることができるカード(切り札)を持っていない。
【ゼレンスキー】 私はカードで遊んでいるわけではない。大統領、私はとても真剣だ。私は戦時下の大統領だ。
【トランプ】 あなたはカードで遊んでいるのだ。数百万人の命と第3次世界大戦(が起きる可能性)を賭けてギャンブルをしている。第3次世界大戦を賭けたギャンブルだ。そしてあなたがやっていることは、米国に対して非常に失礼だ。
【ゼレンスキー】私は米国に敬意を払ってる。
【バンス】あなたは一度でも「ありがとう」と言ったか。
【ゼレンスキー】何度も。
【バンス】違う。この会談で言ったか。
【ゼレンスキー】今日も言った。今日も言った。
◇ ◇ ◇
画面を見ていて、あまりの切なさに溜息が出た。日本でも鈴木宗男以下プーチンに肩入れする人間はわんさといる。もちろんトランプとバンスにもいるだろう。だが、みな外野の、いわば他人事の人間だ。父親や兄や友人を失い家を失い、現実に血を流して戦っているのはウクライナ人であることを忘れている。ウクライナ兵の戦死者4万6000人、数万人が行方不明だ。(これに倍する戦死者を出しているのがロシアであるが)
その、「部外者」たちは少しはウクライナに敬意を払ったらどうか。アメリカは最大のウクライナ支援国である。いや「だった」。
それがいまは軍事援助を打ち切る算段をしているという。政権が変わったから仕方がないとはいえ、ロシアとイスラエルに肩入れ、自分勝手なトランプ外交には今や世界が眉ひそめている。
◇ ◇ ◇

話は変わるが、今回の報道の中で一番感心したのはCNNである。米国とウクライナの首脳会談が声を荒らげ破局に突き進む中でプレス全員が前方に注目している中でただ一人、後方に控えて目頭を押さえ、悲しみにうなだれているマルカロワ駐米ウクライナ大使(女性)の姿を追っていた。

マルカロワ大使は両首脳が激しく衝突すると驚いたように手で口を覆い、額に手を当てる姿を見せた。眉間を押さえ頭を深く下げたまま首を振ったりもした。大使を直接見守ったCNNの記者は自身のXアカウントにこの場面を投稿し、1日で照会数が100万回を超えた。
長い新聞記者生活で会得したことだが、たいていの記者やカメラマンは事件事故の現場やインタビューで真っ先に、真ん前に出て行くものだ。10人いたら9人までがそうだ。最初に配属される地方記者だとカメラマンも兼ねているから真ん前に出て行くが、やがて気づく。一枚の写真で全体像を伝えるためにはカメラは後方から全景を撮った方がいいのだと。
Xアカウントに投稿したこの記者(Kaitlan Collins)はその残り1人に該当する秀でた存在だと思う。自国が追い込まれた悲劇的な会談の全体像を見事に表現しているではないか。もし、自分が上司だったら間違いなく賞を出していただろう。
最後にもう一つ。いつもの手口「トランプでよかった」式にいうのだが、これでプーチンがこれまで恫喝してきた「核使用をためらわない」という言葉が使えなくなった。NATOはじめ世界に対して核使用をチラつかせてきた常套句が、もう使えなくなった。何しろ、トランプが身内に入ったのだから。これは、今回の首脳会談破綻の最大の成果ではないか。