朝日新聞は2014年、いわゆる従軍慰安婦報道や、東京電力福島第一原発事故の「吉田調書」報道などで、記事を取り消し、「誤報新聞」と言われているほどだが、こんどまたやらかした。
厚生労働省の「年金試算」を批判した記事に誤りがあったとして、26日付朝刊に「おわび」を掲載し、記事を訂正した。記事は塩崎厚労相の国会答弁を「曲解」して書かれており、識者は「記者は自分の考え方に合致した部分だけを記事に拾い上げたものだ」」と指摘している。
この事実を唯一きちんと報道している読売新聞によると、誤りがあったのは、朝日が22日付朝刊I面で、「年金 不適切な試算/厚労省 支給割合高く算出」との見出しで報じた記事。現役世代の平均的な賃金に対する年金額の割合を示す「所得代替率」について、厚労省が「不適切な計算方式を使い」と記載し、同省側か高く算出したかのように報じた。同省が別の方式で計算した場合、所得代替率は50・9~53・9%に低下するとも記述し、将来的に50%を割り込む可能性を指摘した。
この記事は、21日の衆院厚労委員会での長妻昭氏 (民進)の質問と、塩崎氏の答弁が基になっている。だが実際には、所得代替率の計算方式は国民年金法などで定められ、同省が別の方式を選択する余地はなかった。「50%以上」を確保することも同法などで規定され、50%を下回る見通しとなれば、制度を変える必要がある。
また、「塩崎氏は年金の試算について『役割を果たしていないこともありうる』と述べ、不十分だと認めた」とも記述している。しかし、塩崎氏の発言の趣旨は正反対で、現行の計算方式を変えた場合に「役割を果たせない」との見解を示したものだった。
同省は22日、ホームページに「明らかな事実誤認」などとする抗議文をただちに掲載していたが、民進党の蓮舫代表は22日夜に報道陣の取材に応じ、「イージーな計算ミス。今出している法案は取り下げていただくのが筋」などと頓珍漢な政府批判を繰り広げていた。
年金制度に詳しい堀勝洋・上智大名誉教授は、「記事は、政府が年金額を恣意的に高く見せかけようとしているとの印象を与えかねず、不適切な内容だ」と指摘する。服部孝章・立教大名誉教授(メディア法)は、「記者自身に『こうすべきだ』という考えが強くあると、それに合致する部分だけを拾いがちになる」という。
これより先の12日、中日新聞と東京新聞の社会面の隅に〈「新貧乏物語」の一部を削除します〉と書かれたお詫び記事がこっそりと掲載された。
東京新聞に年明けから掲載された大型連載で、1916年に大阪朝日新聞で連載された河上肇の『貧乏物語』になぞらえ、現代の貧困問題を取り上げたもので、新聞協会賞にも応募、9月には貧困ジャーナリズム賞も受賞した(後に返上)。
問題になった記事は5月19日付の中日新聞「病父絵の具800円重く」で、ある中学3年生の苦境が明かされている。父が脳梗塞で倒れ、収入が激減。絵の具など教材費も払えないほどの暮らしになり、バスケ部の合宿代1万円が払えないこともあったと書かれている。
ところが、家族からの指摘で教材費や合宿代も払えない、といった記述が嘘と発覚。その原因を先のお詫びでこう釈明している。
「記者は『原稿を良くするために想像して書いてしまった』と話しています」
つまり、捏造である。中日新聞の関係者は、 「握造したのは、岐阜支社にも赴任していた若手の男性記者で訂正記事をよく出すことで有名だった。現在は本社で処分を待つ身です。1月に掲載された第1部を読んだ匿名の読者から、苦しむ若い方へ届けてほしいと、1000万円が東京新聞社会部に届いたという反響ぶりだった。このお金は子どもの貧困対策を行っている公益財団法人あすのばに寄付され、貧困家庭への給付事業と熊本地震の支援にあてられることになっていた。大金を寄付した匿名の読者が捏造記事と知ったらがっかりするに違いない。
朝日の「曲解」記者と、中日の「捏造」記者に共通して言えることは、新聞記者としての基本がなってないことだ。