GPS衛星「みちびき」のホントのねらい

「みちびき2号」機を載せ、打ち上げられるH2Aロケット

 

政府の準天頂衛星「みちびき2号」の打ち上げが成功した。日本版の衛星利用測位システム(GPS)を担う衛星は来年度から高精度な位置情報が得られる4基体制で本格運用が始まる。これが意味するところの重要性を、メディアはクルマの自動操縦やドローンによる配送、といった民生用途を盛んに報じているが、本当に凄いのはその軍事利用の面である。

「みちびき」は電波で地上の位置を計測するための測位衛星だが、米国が開発した日本でもカーナビゲーションやスマートフォンなどで広く利用されているGPSは米国が開発したものである。本当の能力はものすごいのだがわざと精度を落としたものを他国に使わせている。

1990年以前だが、カーナビがついたクルマで福島県相馬にいる親戚を訪ねた。常磐道を走ったが画面を見たら海の上で点滅していた。誤差でいうと数百メートルはあった。1991年神奈川県警本部庁舎が完成して、各新聞の支局長がお披露目に案内された。最上部に円盤が張り出したような部分は通信司令部が入っているところで「パトカーの現在地が画面に表示されていますが誤差はわずか15メートルです」と言われた。現在スマホなどで地図案内を利用している人が多いだろうが誤差10㍍前後はあるだろう。

アメリカ頼りのGPS衛星は日本から離れた場所にいるときは、高層ビルなどで電波が遮られ、位置情報の精度が落ちてしまう。そのうえ精度を落として配信している。米国がGPSの利用を制限している現状では、より精度が必要なクルマの自動操縦、ドローンなどの技術開発に差しさわりが出るので、日本はじめ各国は自前で測位衛星を構築する必要に迫られ、日本は23年に「みちびき」の本格運用を決めた。

「みちびき」は日本のほぼ真上(準天頂)を長時間飛行できる特殊な楕円軌道を周回するため、高い精度で計測できる。2号機に続き3、4号機を年内に打ち上げ、平成22年から運用中の初号機と合わせて4基体制を構築。35年度に7基に増やし、GPSに依存しなくてもよい態勢にする計画だ。

どれくらいの精度になるか。「誤差6センチ」という。総務省などによる農場実験では、無人のトラクターが40センチ間隔で植えた稲の間を走行し、タイヤで倒すことなく作業できた。

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北朝鮮は29日、東部のウォンサン(元山)付近から弾道ミサイル1発を日本海に向けて発射し、島根県隠岐諸島からおよそ300キロの日本の排他的経済水域の中の日本海に落下させた。

30日朝、国営メディアを通じて「キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の立ち会いのもと、精密誘導システムを導入した新しい弾道ミサイルの発射実験に成功、目標との誤差7メートルに命中させた」と発表した。

これがウソであることは各国の軍事関係者ならすぐわかることだ。自前のGPS衛星を持たない北朝鮮が誤差7メートルの範囲内に打ち込むことなどできることではない。中国は17年前から中国版のGPS衛星「北斗」を打ち上げ、既に約20基を運用中だ。アジア諸国に売込中だが北朝鮮に売ったという情報もない。

それだけに日本の「みちびき」打ち上げ成功に北朝鮮はすぐさま反応した。

北朝鮮外務省の報道官は2日、「わが国を狙った事実上の偵察衛星だ」と非難し、「もはやわれわれが何を打ち上げようが、それが日本の領空を通り過ぎようが、日本は何も言えなくなった」と主張した。朝鮮中央通信が伝えた。

日本のメディアは伝えないがその指摘は当たっている。「‎みちびき」は日本の真上にあるが朝鮮半島の真上と言ってもよい位置でもある。核爆発実験場の様子を横(距離)にも縦(高さ)にも「誤差6センチ」で把握できるのである。

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