イチローに「哲学者」を見た

 

米大リーグ、マリナーズのイチロー外野手(45)が21日、現役引退を発表した。同日に東京ドームで行われたアスレチックスとの開幕シリーズ第2戦後に記者会見し、「きょうのゲームを最後に日本で9年、米国で19年目だった現役生活に終止符を打ち、引退することとなりました」と語った。

大声援に応えるイチロー選手

45年間の偉大な成績と折々の求道者のようなコメントはスポーツ紙に任せるとして、ブログ子は真夜中に行われた記者会見の内容に心打たれた。道を究めた人の言葉には哲学者に通じる「真理」があるものだが、この夜のイチローの会見には数多くの哲学がちりばめられていた。

 

社会現象となった引退劇としては長嶋茂雄の引退劇がある。1974年10月12日、中日の優勝が決まり巨人のV10が消えた日、長嶋は現役引退を表明、翌日のスポーツ紙は全紙1面トップだった。その夜、ブログ子は写真部の暗室で「巨人軍は永遠に不滅です」と語る長嶋の写真を現像しながら涙を流しているカメラマンを目撃した。

アンチ巨人派でもあり「男が泣くほどのことか」と思ったものだ。その後長嶋が監督になrい、やがてそれも引退した時「長嶋でなければもっと勝っていた」と広言してはばからなかった。その間、長嶋に「哲学」を感じたことはなかった。

イチローはどうか。記者会見の全文は産経、毎日のサイトで読めるのでそちらを見てもらうとして、ブログ子の心に残った片々は次のようなセリフだ。

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深々と頭を下げて記者会見を終えるイチロー

何を得たか…?うーん。まぁこんなものかなぁという感覚ですかね。勝つのってそんなに難しいことじゃないなって思っていたんですけど、勝利するのは大変なことです。この感覚を得たことは大きいかもしれないですね。

アメリカでは僕は外国人ですが。.外国人になったことで、人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れてきましたね。この体験というのは…本を読んだりではなく、体験しないと自分の中からは生まれないので。孤独を感じて苦しんだことは、多々ありました。ありましたけど、その体験は、未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと、今は思います。辛いこと、しんどいことから逃げたいと思うのは当然のことなんですけど、でも、エネルギーのある元気な時にそれに立ち向かっていく。そのことは、すごく人として重要なことなんじゃないかなって感じています

かつてのセリフだが「4千の安打を打つには、8千回以上は悔しい思いをしてきた。それと常に向き合ってきた。誇れるとしたら、そこじゃないかな」

イチロー選手から子供達へメッセージを求められルーツと、 「野球だけじゃなくてもいいんです。自分が夢中になれるものが見つけられればそれに向かってエネルギーを注げられるので、そういうものを見つけて欲しいそれが見つかれば自分の前に立ちはだかる壁にも向かっていける。自分に向くか向かないかというよりも好きなものを見つけて欲しいと思います」

自分の生き方について問われると、「人より頑張ることなんてとてもできない。自分に限界を生みながらちょっとそれを超えていくと、いつの間にかこんな自分になっていく。少しずつの積み重ねでしか自分自身を超えていけないのではないか」

やはり、誰かの思いを背負うということはそれなりに重くて、やはり一本ヒットを打ちたかったし、結果を残して最後を迎えられたら一番いいなと思っていたが、それはかなわなかった。それでもあんなに球場に残ってくれて。死んでもいいという気持ちはこういうことだろうなと。死なないですけど。そういう表現をするのはこういうときだろうなと思った。

――イチロー選手の生きざまで、ファンの方に伝えられたこと、伝わっていたらうれしいことはあるか?

生きざまでというのはよくわからないが、生き方と考えるなら、人よりも頑張ることはとてもできない。あくまでもはかりは自分の中にある。自分なりにはかりを使いながら、ちょっと超えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの日かこんな自分になっているんだという状態になって。少しずつの積み重ねは、それでしか自分を超えていけないと思う。一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではないですね。後退もしながら、ある時は後退しかしない時期もあると思うので。でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。それは正解とは限らない。間違ったことを続けてしまうこともあるが、そうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えない。そんな気がしている。自分なりに重ねてきたことが、今日のゲーム後のファンの方の気持ちを見たときに、ひょっとしたらそんなところを見ていただいていたのかなと。そうだとしたらうれしいし、そうでなくてもあれはうれしい。

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