なにせ、1936年に日中の海運会社間で交わされた船舶の賃貸契約をめぐる古い民事争いが発端だ。原告は、中国国内法整備の隙間に生まれた時効の空白を突くことで、戦前の“亡霊”を現代によみがえらせ、強制執行に持ち込んだ。
旧大同海運(現・商船三井)に貨物船2隻を賃貸したのは、陳順通という上海の船舶王の経営した海運会社だ。契約満期前に日中戦争が始まったことで、賃貸中の2隻は旧日本軍に徴用され戦争で沈没した。現在の原告は陳順通の孫らで、三代にわたり戦前の債権回収に取り組んできた。70年代には東京地裁で訴訟を起こしたものの、「時効」を理由に相手にされなかった。
そこで本国で訴訟を起こした。その執念に驚くが、この間にうまい具合に法改正があった。87年1月に施行された中国の民事新法「民法通則」で、同法の施行後2年以内の提訴に限って、最高人民法院(最高裁)が事実上の時効停止できるというもの。上海海事法院に提訴され、1審(2007年)、2審(10年)とも、原告が勝訴していた。
それでも日本政府は楽観していた。中国は72年の日中共同声明で戦争賠償請求権の放棄を表明した。その代わり日本側は対中経済支援を約束し、その約束通りに政府開発援助(ODA)や技術協力を展開した。
これまでに有償資金協力(円借款)を約3兆1,331億円、無償資金協力を1,457億円、技術協力を1,446億円など総額約3兆5000億円以上のODAを中国側に実施した。中国の経済成長は韓国と同じでまさに日本の援助によって成し遂げられたものであり、賠償放棄の元は国家全体として十分すぎるほど受け取っている。共同声明を踏みにじるとは思いもしなかった。
お人好しの日本政府に、習近平・中共政府は平気で戦前の忘れ去られた請求書を突きつけたのだ。中国の裁判所は中国共産党の指導下にある。尖閣諸島に続いて切り札を切ることを命じたのは習近平政権であることは間違いない。
今後、中国政府の“指導”下各地で訴訟が起こされるだろう。既に2月には「日中戦争時に強制連行された」と訴える元労働者や遺族が、三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)を賠償請求の提訴をしている。
中国の「禁じ手」破りを見て韓国も見倣うだろう。現に韓国では「戦時中に強制労働させられた」とする韓国人女性らが三菱重工業や新日鉄住金、不二越を相手取った訴訟で、一部勝訴に持ち込んでいる。韓国の裁判所は他の欧米国と同じように三権分立のように見えるが、時の政権の顔色を見た判決は山ほどある。反日ならなんでもOKの現状ではこちらも危ない。
これに対して日本の切り札は「経済」だけである。日本が本格的に資本と技術を引き上げたらひとたまりもないのだが、これを理解している一般庶民は両国jともほとんど居ない。中国共産党一党独裁政権の崩壊の早からんことを願うだけだ。