沖縄や北海道の人は本州のことを「本土」と呼ぶ。本土にいると沖縄の新聞は読む機会もないが、はっきり言ってこの地の主要2紙(沖縄タイムス、琉球新報)は朝日新聞以上に「真っ赤っか」である。なにしろ仲井真弘多知事は3月県議会の本会議場という公式の場でこう言い放ったくらいである。
地元紙の報道を引き合いに質問された時のことだが「(沖縄)タイムスは読まん新聞ですから。(琉球)新報も止めた。特定の団体のコマーシャルペーパーと聞いたものですから」
米軍普天間飛行場移設の埋め立てを承認して以来、2紙の報道に不満を募らせていたこともあろうが、地元紙が知事から引導を渡されるというのは聞いたことがない。その沖縄タイムスの「社説」というのを電子版で読んだ。なるほど、あてつけ、重箱の隅をつつく論理、挙句は結論が「友好・交流による緊張緩和への貢献こそが『国境の島』にふさわしい」ときた。笑ってしまった。
沖縄タイムスなど読んだことがない人が大半だろうから再録するが、防衛上かねて念願となっていた与那国島に自衛隊レーダー基地を置き隊員を常駐させるため基地建設に着手した、と防衛省の19日の発表をうけての21日の社説である。少し長いが全文を再録してみる。
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与那国島への陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備計画で、防衛省が19日、現地で起工式を行った。小野寺五典防衛相らが参加した式典は、配備に反対する住民が会場を取り囲むなど終始混乱した。
この事実が象徴しているのは、島への自衛隊配備に対する住民の賛否が二分しているということである。このまま配備計画を強引に進めることには、重大な懸念を抱かざるを得ない。
昨年8月の与那国町長選で「配備推進」を訴えた外間守吉町長が3選を果たしたが、対立候補との票差はわずか47票だった。
選挙後、町や国は住民対話を持つなど、積極的に島内融和に取り組む必要があった。それをおざなりにしたまま、配備計画を進めたことが、住民同士の溝を深めていることを認識すべきだ。
選挙の後、配備計画に関して町単独で開催した住民説明会があったのは、ことし2月になってからだ。説明会に防衛局の担当者は同席せず、住民からは「不十分で理解できない点が多い」と不満の声が上がっていた。
駐屯予定地の町有地の賃貸借契約を解除するに当たり、農業生産法人への損失補償額を防衛省が大幅に上積みした交渉経緯も不透明だ。防衛省は当初提示した1億1千万円から積み増し、約3カ月後に2億4千万円で合意した。
算定基準の不自然さが指摘されているが、税金の不透明な支出であり、当然だ。配備に向け、なりふり構わぬ国の姿勢が、住民の不信感を一層募らせているのである。
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沿岸監視部隊はレーダーで付近を航行・飛行する艦船や航空機を監視する。中国の海洋進出に対抗するため防衛省が打ち出した南西地域の防衛態勢の強化の一環だ。
与那国町の人口は3月末で1479人。隊員は150人規模で、家族を含むと約200人が島に住むことが見込まれている。町は「非常に大きなインパクト」ととらえ、施設工事や防衛省の補助事業によるインフラ整備で町民生活の向上につなげ、人口減少に歯止めをかける考えだ。
しかし、自衛隊配備が過疎化対策になり得ないことを示す事例がある。1959年から陸海空自衛隊が配備された長崎県対馬市では、60年に約7万人だった人口が、約3万5千人に半減している。
また、与那国への自衛隊配備が近隣諸国を刺激し、緊張が高まれば、住民が望んだ地域づくりとは逆のベクトルが働くことになりかねない。
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中国外務省は沿岸監視部隊配備について「日本は国際社会に、軍事力増強の真の狙いを説明するべきだ」とけん制した。近隣諸国との緊張が島の住民の暮らしを脅かすことがあってはならない。
2005年に町が策定した「自立へのビジョン」では「東アジア地域との友好・交流を推進し、国際社会の模範となる地域間交流の実現に努力する」と宣言した。町はむしろ、その姿勢を堅持することをあらためてアピールすべきではないか。友好・交流による緊張緩和への貢献こそが「国境の島」にふさわしい。
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与那国島は尖閣諸島から南へ約150キロ、台湾から東へ110キロに浮かぶ人口約1500人の島。ブログ子はサイトで「驚異の飛翔2200キロ アサギマダラの神秘」という一文を書いているが、春と秋の渡りの季節に蝶が立ち寄る島として有名で、これ目当てに訪れる人が多い。日本最西端の碑が立っている。沖合はこのところ太平洋に進出が激しい中国艦船が通過する一方、各国の通信が飛び交う防衛上枢要の地にある国境の島ながら、警察官2人が駐在するだけだった。防衛省はやっとレーダーを設置してさらに約100人の沿岸警備部隊と約50人の後方支援部隊を駐留させ、付近を航行する艦船と航空機を監視することを決め、2015年度末までに運用を開始する予定である。