何度繰り返す「バター不足」の愚

年の瀬にバターの品薄が深刻だ。稼ぎどきなのにケーキが作れない、パン屋でクロワッサンがつくれない、スーパーの店頭からバターが姿を消した、と大騒ぎだ。家人は近在を走り回って幾つか手に入れたと安堵している。

農水省はニュージーランドなどから緊急輸入をした上、メーカーに3割増産を通達したのでクリスマスまでには出まわると広報しているが、一昨年は供給過剰で牛乳を牧場で捨てている写真を見たばかりである。どうしてこんな愚策を繰り返すのか。

バター不足の原因は酪農経営の危機

バター不足の原因は酪農経営の危機

当座は収まるだろうが、バター不足の背景には深刻な問題が隠されている。直接の原因は、国内で酪農家が激減していて、したがって乳牛が減り続け、生乳の生産量が落ち込んでいるためだ。生産量の50%近くはスーパーなどに牛乳として流れるが、とにかく安く安くと叩かれるためろくすっぽ利益が出ない。生産量の25%がバター用に回されているが、それとて今回のように農水省がバターを緊急輸入すればその分売れなくなる理屈で、いくら「増産」を指示されても酪農家の経営は悪化するばかりである。

経営を圧迫しているもう一つの原因は、牛へ与える餌が円高で価格が高騰しているところに、搾乳に必要な電気代や暖房の石油代が上がっていること。さらに環太平洋経済連携協定(TPP)で自由化されると国内の酪農家はやっていけないとの不安から、後継者がいても継がせないケースもあり、離農に歯止めがかからない。

先の衆議院選挙の結果を受けて総理大臣の指名選挙を行う特別国会が24日に召集され、町村信孝元官房長官が衆議院議長に就任する。町村氏の生家は北海道の酪農を先導してきた町村牧場である。ブログ子が学生時代、汽車で知り合った人に誘われて町村牧場で牛舎の世話のアルバイトを一週間ほどしたことがあるが、くたくたになる重労働であった。その時は知らなかったが北海道知事は、信孝氏の父親の町村金五氏で、知事公舎とはわからずに飛び込んで応対に出てこられた夫人の世話で北32条の下宿に落ち着いた。そのころ釧路の東の別海村にできた国策の広大なパイロットファームが日本の酪農を先取りしたモデルとして新聞を賑わしていたのだが、現在は上述の理由で不振を極めている。

農林水産省によると、国内の酪農家数は最盛期の63年に41万7600戸あったが、今年2月時点で1万8600戸と半世紀で96%も減った。半世紀前というとブログ子が町村牧場に滞在した頃である。この頃が酪農経営の頂点だったようで、その後は転落の一途で、乳牛頭数は今年は139万5千頭と、ピークの85年から34%減った。生乳生産量もピークの96年度に866万トンだったが、昨年度は745万トンと14%減った。

JA北海道中央会によると、飼料高騰などで酪農家の所得は減り、北海道では98年に生乳1キロあたり29円だったが、2012年は20円に下落。そのため、規模拡大への投資を控える傾向にある12年度に離農した205戸の酪農家を対象に調査した結果、後継者はいるのに、将来の不安から継がせなかったり、設備投資に踏み切れなかったりして離農したケースが100戸を数えた。

一昨年、牛乳を大地にまき散らしたのは生乳が売れず、生乳をバター生産に回すにも乳業メーカーが引き取らなかったためである。酪農農家の悲鳴でもあったのだ。TPPで多分日本の酪農は窮地に立つ。農水省はまた輸入に頼るような愚は犯すべきではない。スーパーの牛乳の価格を多少上げてでも自給率を下げない努力をすべきなのだ。

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