大阪に長く暮らしたので大阪弁の見出しにしたが、多少品に欠けるものの、実利を求める点で人後に落ちないはずの大阪のおばはんが、いつからこんなに「えげつない」(いやらしい)ことになったのかと首をかしげる訴訟だった。
旅館の女湯が廊下から丸見えになっていたため精神的苦痛を受けたとして、大阪府内の30代の女性と60代の母親が、「 関西の奥座敷 」として知られる武田尾( たけだお )温泉の老舗温泉旅館に対し、慰謝料など約200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が13日、神戸地裁尼崎支部であった。佐藤志保裁判官は、「損害賠償請求権が発生するほどの権利侵害があったと認めることはできない」として原告側の請求を棄却した。判決によると、女性らは平成25年8月、家族 3 人で旅館に1泊予定で訪問し、午後3時ごろから約30分間、女湯に入浴。入浴後、女湯の向かいの廊下に歩いて渡ったところ、女湯のガラス窓の外に掛けてあったすだれが外されており、女湯の中が廊下から丸見えになっていたことに気付いたという。
女性らは「裸を見られた可能性が高く、旅館は女湯を外から見られないよう注意するべきだった」と主張、さらに「 盗撮され、インターネットに掲載される恐れもあった。宿泊者に対する義務違反が著しい 」と主張していた。旅館側は謝罪として宿泊費から 1 万円値引きすることを申し出たが、女性らは宿泊を取りやめ、その後、胃痛や不眠を訴え、病院で不安抑鬱状態と診断されたと、診断書をつけて訴え出た。
女性らの代理人弁護士は「 30 分もの間、独身女性が入浴姿をさらされていたことは多大な精神的苦痛につながる 」としていた。一方、旅館側は「 謝罪など、できる限りの対応はした。女湯が外から見える状況になっていれば、すぐに入浴をやめるはず。約 30 分間も気づかないまま入浴していたというのは考えられない 」と争っていた。
この日、佐藤裁判官は、「女性らが入浴した午後3時ごろに廊下を通る人がいたと想定することは難しい。風呂の内部は暗く、窓ガラスには水滴もついており、よく見える状態ではなかった」と指摘。「入浴中に裸を見られた可能性はきわめて低く、女性らの主張は採用できない」とした。
あったり前田のクラッカー(少し年代モノだが、大阪でよく使われるセリフ)ならぬ当然の判決で、担当した女性裁判官(名前から判断して)ですら同姓の訴えを「無理筋」と断言したものだ。それにしても大阪人はいつからこんな見苦しい訴訟マニアになったのか。
訴訟大国アメリカでは大統領以下実入りがいいのは弁護士である。飛行機が墜落すると真っ先に現場に駆けつけるのは名刺を持った弁護士で、自分なら一段と高い慰謝料を勝ち取ってみせるとアピールする。日本は幸いにも謙譲の精神がいきていて相手の立場も斟酌するから、まず互いに引いて解決しようとする。おかげで日本の弁護士は軒並み収入が伸び悩み、日本弁護士連合会のまとめによると昨年検挙された弁護士は計101件。初めて100件を超えた。依頼者から預かった金を流用するケースが目立つといい、各地の弁護士会が防止策を急いでいる。弁護士数が急増した一方で、仕事が増えない現状も背景にあるとみられる。
弁護士稼業が成り立ちにくいというのは、日本社会がそれだけ健全だということである。
件の大阪のおばはんに対してネットでは「そんな裸見とうもないワ。こっちが慰謝料欲しいくらいや」と書き込みがあった。そうなのである、この母と娘は大阪らしく「いややわあ、見られてしもうたんかいな。今日のところは見物料タダにしとくワ」くらいにしゃれのめせばよかったのだ。