浪花節だよ、プロ野球は

広島カープが「帰ってきた男・黒田物語」でブレークしている。復帰第一戦となった29日の対ヤクルト戦では、マツダスタジアムは3万1500人を超えるファンで埋め尽くされた。人気アーティスト「B’z」が黒田のために特別に書き下ろした登場曲「RED」が曲がれる中、ゆっくりと黒田博樹投手がマウンドへ向かうと『おかえり』コールが沸き起こった。

「おかえりなさい」コールで喜ぶ広島ファン

「おかえりなさい」コールで喜ぶ広島ファン


スタンドは背番号「15」の赤いユニフォームの波で、黒田の名前がコールされると、スタンド全体から拍手がわき起こり、「お帰りなさい、黒田」の大合唱となった。中継番組の視聴率が、広島地区で平均34・9%を記録した。中継全体の平均は31・8%で、休日の昼間としては驚異的な高数字だった。

ガッツポーズで応える黒田投手

ガッツポーズで応える黒田投手

翌朝の新聞では、「米大ヤンキースから8年ぶりに復帰した広島・黒田博樹投手が先発した。2740日ぶりとなった日本の公式戦マウンドで、ヤクルト打線をほんろう。7回96 球を投げ、5安打5三振1四球、無失点に抑え、07年9月27日・ヤクルト戦(広島市民)以来、2740日ぶりの日本での白星を挙げた」と興奮気味。在京スポーツ紙も軒並み黒田一色だった。

ここまでファンを燃え上がらせているのは、彼の男意気、心意気、そして義理、人情、特に故郷のカープへの恩返しの心情に打たれるからである。日本人大リーガーが元の球団に戻るケースはさほど多くはない。広島に入団した頃は、潜在能力は高いものの未完の投手だった。体も細いし、制球はバラバラ。自らの努力があったのはもちろんだが、加えて我慢強く使ってくれたチームのおかげで、大木に育った。広島が地域に密着し、お金がないため、育成に力を注いできた伝統を持っていた球団だったからこそ、自分が成長したことを、黒田は忘れなかった。

FA権を得ても広島にとどまっていたが大リーグ入りがスポーツ紙をにぎわすようになったとき、当時の広島市民球場外野席に突如、巨大な横断幕が登場した。大きな文字で「我々は共に闘って来た 今までもこれからも… 未来へ輝くその日まで 君が涙を流すなら 君の涙になってやる Carpのエース 黒田博樹」と記されていた。更にシーズン最終登板試合には満員のファンが黒田の背番号15の赤いプラカードを掲げ球場を赤色に染め上げて見送った。後に黒田本人も「あのファンの気持ちは大きかった」と述べた。

昨シーズンヤンキースでの黒田は11勝9敗。日本人メジャーリーガー初となる5年連続2ケタ勝利を挙げた。ドジャーズ、ヤンキースを通じてのメジャー7年間の通算成績は79勝79敗、防御率3.45。3年間在籍したヤンキースが再契約を強く望んだのをはじめ、2008年から4年間プレーしたドジャース、パドレスなどが獲得に乗り出していた。中でもパドレスは今季ヤンキースでの年俸1600万ドル(約19億2000万円)を上回る1800万ドル(約21億6000万円)を提示したと言われる。

その黒田投手は年俸4億円で広島への復帰を決めた。21億円を蹴って4億円。カープファンを泣かせたのは、お金の問題だけではない。入団会見では「年齢的な部分を考えても(2月で40歳)残りの野球人生は長くないと思っていますし、いつ最後の登板になってもいいという気持ちでやっています。一球一球にどれだけの気持ちを込めて投げられるかと考えたときに、カープのユニフォームを着て投げて最後の一球になったほうが、後悔がないと思い、復帰を決断しました」

いずれ引退する日がきても、最後の試合はカープファンの前で投げたいとの思いにファンは泣かされ、球場を真っ赤に埋め尽くした。

◇ ◇ ◇

それに引き換え中日ドラゴンスの落ち目ときたら・・・

今年の開幕戦、いきなり3連敗である。不吉なスタートだが、いつものようになんとか格好のつく程度の成績に落ち着くのではないか。だが昨年から人気の凋落現象は激しく、例えば中日ドラゴンズのホームゲームの試合中継に「スポンサーがつかない!」と民放各社から悲鳴があがっているという。

ドラゴンズの試合は東海テレビ、CBCテレビ、テレビ愛知など地元放送局3社が中心となってそれぞれ年間15試合から10試合を中継する。1試合を放送するには球団に支払う放映権料と中継費用を合わせて約1500万円から1000万円。複数の企業でスポンサーとなるのだから、1社の料金はそんなに高くはないのだがダメ。全国放送ができる巨人戦や阪神戦。パ・リーグでは大谷人気の日本ハム戦はなんとか売り手がつくという。だが、その他のカードはなかなか売れない。

 「ドラゴンズ自体に人気がないんですからどうしようもない」と球団関係者。スポンサーを断ってきた企業のほとんどが『中日の試合は面白くないから』をその理由に挙げている。

 「面白くない試合」-との声がファンの間で聞かれるようになったのは、なにも昨シーズンからではない。落合博満GMが監督を務めた平成15年から聞こえていた言葉だった。

「オレ流」では面白くないんです。落合博満GM!

「オレ流」では面白くないんです。落合博満GM!

あるドラゴンズファンはいう。「落合監督だったときの試合は実につまらなかった。ペナントレースに勝つために-とWBCに選手を出さなかったし、ホームランを打ってもガッツポーズもさせない。ファンサービスする陽気な選手は、トレードに出されたんですから」

落合監督の“ガッツポーズ禁止令”は本当の話。ホームランを放ち、ガッツポーズをしながらベースを1周した選手は、試合後、監督に呼ばれた。てっきり褒められると思ったら「お前はなぜガッツポーズなんかするんだ。あんなものは相手をカッカさせ逆にやる気を起こさせるだけ。勝つためには必要ない。2度とするな!」としかられたという。

 ファンは続けた。「たしかに落合中日は勝ちました。でも試合は面白くなかった。だから監督をクビになったんでしょう。その人がGMになっても、ファンがワクワクするような魅力あるチームを作れるとは思えないんですよ」

 厳しい指摘はファンだけではなかった。昨年11月に地元名古屋のテレビに出演した楽天・星野仙一シニアアドバイザーが「立派なスタジアムがガラガラに見える。何故なのか?(中日のOBとして)しっかり提言しないといけない。考えてみれば、これ(落合獲得)が失敗だった」と発言した。

これは、1986年のオフ、星野監督自らが巨人との争奪戦の末、牛島和彦投手、上川誠二内野手ら4対1のトレードでロッテから三冠王・落合を獲得した。上述の「失敗」とは自分さえそのトレードをしていなければ後の「監督」も「GM」もなければ、いまの暗黒時代も来ていなかったという意味である。

落合GMは井端弘和内野手や山本昌投手ら大物選手には減額制限を大幅に超えた年俸を提示し「イヤなら必要ない」と突き放した。制限いっぱいのダウンを飲んだ選手は18人にものぼる。ルーキーや裏方さんたちも給料を減らされた。総額8億円超のコストカット。落合GMでなければできなかった“功績”だが、ネクラな性格はチームを沈滞させた。

 獲得に失敗したからといって、その腹いせに昨シーズン最多勝(16勝)と最優秀防御率(1・98)の2冠で沢村賞に輝いた選手を「あの程度」呼ばわりしてオーナーへ報告するかと思えば、昨シーズン、球団タイ記録の186安打を放ち、打率はベストテン4位の・318、チームトップの28盗塁をマークした大島洋平外野手の年俸を「君の守備力ではこれ以上出せない」と1775万円増の7400万円(推定)に抑えるなどやる気をなくさせることばかり平気で押し通す。

落合博満の「オレ流」は今に始まったことではない。「勝てばいいんだ」と言いたいのだろうが、満員のマツダスタジアムと並べるとき、ブログ子は「落合はいまだにわかっちゃいないなあ」、と思うのだ。スポーツ紙の編集責任者をしていた時、中日担当を命ぜられた記者が露骨に嫌な顔をしていた。当時から落合は嫌われ者だった。

浪曲師なら「男心に男が惚れて~」とうなるところだ。データ野球なんぞより、義理と人情と大和魂(やまとだましい)がいいのである。久しく忘れていたが、ファンはプロ野球に黒田のような浪花節を求めているのである。

コメントは受け付けていません。