繰り返す「バター不足」は農水省の畜産無策

農林水産省は、2015年度もバターが不足する見通しとなったため、10月までに約1万トンのバターを緊急輸入する。2015年度のバターの生産量は6万4800トンで、需要量を7100トン不足する見通しだからという。14年度も1万トンのバターを緊急輸入したが、国内メーカーとの調整がうまくいかず、全国で家庭用バターが不足した。数年前には北海道の酪農家が牛乳を捨てている写真が流れたばかりである。愚かなことを何度繰り返すのか。

食料自給率の面から見ても、目標(カロリーベース)を50%から45%に引き下げたばかりである。これは、民主党政権が2010年にパンや麺などに加工する米粉の生産を、約1000トンから20年度に50万トンに増やすなどの計画を立てた。兼業のコメ農家などにも補助金を一律で配る戸別所得補償制度を導入し生産を促す考えだったが、行き詰まったため下げたのだが、1万トン輸入で更に自給率達成は困難になるというのに、民主党はもちろん立案にあたった役人も誰一人として責任をとらない。

バター不足の原因は3つある。

①農水省の減産指示
2008年にもバター不足が起きたが、これは農林水産省が、国産バターが余っているからということで、2007年にバターの減産を指示したことによる。その後もバター需要が減るという予測を立て、国産バターの減産を指示し続けたが、予想に反し国内のバター需要は減らず深刻なバター不足を招いた。

②酪農家の減少

名称未設定 1円安により飼料価格が高騰し、2013年から1年で3倍にまで上昇し、さらに最近では1ドル=125円。ほとんどを豪州などからの輸入に頼っている現状では採算がとれなくなった。加えて酪農は、過酷な肉体労働であること、今後もTPPなど海外の「外圧」の影響を受けやすいことに嫌気がさした酪農家が後継者不足と相まって、高齢の酪農家が次々に廃業していること。

③乳製品の生産順位

乳製品の生産順位の問題が大きい。生乳の中で一番高く売れるのは牛乳用で、酪農家の方も真っ先に牛乳用として出荷する。だから未だに牛乳不足は生じていない。その次がヨーグルトやチーズで、余ったものがバターになるという図式である。それぞれに助成金の問題もついて回る。

バターメーカーと市場任せになっていて彼らから見て価格が安いバターは取り残される、ということである。現に2015年4月には雪印メグミルクが、バターの値上げを実行している。

とりわけ農水省が出している“チーズ補助金”の仕組みが偏りを大きくしている。「農水省は数年前から国産チーズの増産を謳い、『チーズ向け生乳供給安定対策事業』として、チーズ製造に関わる業者(乳業メーカーや酪農家)に対して、2分の1補助を始めた。また、チーズ向け生乳に対しても補助金(チーズ向け生乳に対して1リットル15.41円)が今年4月から恒常的に支給されるよう正式に制度化された。こうしたチーズ生産用に前年を大きく上回る生乳が回されていることが「バター不足」の元凶といってよいのだ。

ブログ子の大学の運動部の仲間には畜産専攻の友人が何人もいた。彼らの必須に「卒業製作」というのがあってバターやチーズ、アイスクリームからハム、ソーセージまで一からつくる。おすそ分けでお相伴したが市販のものよりはるかにうまいのである。流通させるとどうして味が落ちるのか門外漢のブログ子にはわからなかったが、バター不足の原因ははっきりわかる。役人の無能、無策である。

我が家の女性2人は、バター不足などどこ吹く風である。フランスの「エチレ」というバターがおいしいといって国産バターには見向きもしない。おかげでこのメーカーの木製のバケツ型容器が山になっていて、砂糖入れや歯ブラシ入れにまでなってあちこちにある。国産バターを食べるのはブログ子一人、食料自給率の危うさは身近である。

昨日の読売新聞に「官邸に嫌われたら、出世できない」と中堅役人のボヤキ記事があった。内閣人事局制度がスタートして全省庁のキャリアの査定を握るようになって、人事権を握る官邸の反応を役人たちが気にしているというものだが、今回の「バター不足」のような役人の失政には、官邸がキャリアといえども首を取るようにしたらどうか。

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