韓国の保健福祉省は10日、中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)感染者が13人増え108人、このうち死者は2人増えて9人になったと発表した。5月20日に初めて感染者を確認してから約3週間で100人を突破した。隔離対象者は3000人に上っている。
朴槿恵大統領の後手対策に非難がたかまり、14日から18日まで予定していた米国訪問の延期を発表した。「国民の安全が最優先であり、国内で国民の不安解消に努める」と、もっともらしいコメントを出したが、国民の43・3%が「朴大統領の責任が最も大きい」と非難している。
政府は10日から全国の病院で、すべての肺炎入院患者を対象に、MERS発生病院を訪れたことがないかの聞き取り調査を始める。ソウル市などではMERSウイルスの検査も実施。MERS感染者を見落としていないかを点検するのだそうだが、遅すぎる。発生が確認されたのは先月29日である。韓国政府は「ウイルスは国内で変異しておらず、確認されたのはすべて病院内での感染で、押さえ込める」と発表していたが、今や3次感染者まで広がり、全国拡散の心配も出てきた。
なぜこうも急激に拡散したのか。昨年2人の感染者を出したアメリカは水際で食い止めた。4日から数日で隔離したのに比べ韓国では16日後である。南西部全羅北道の男性(59)は5月末、症状が出た状態で4日間にわたり3病院を訪れ、計約360人と接触した可能性がある。加えて保健当局が感染者が出た病院名の公表を手控えたことから拡散した。
感染者の暴挙も輪をかけた。先月29日に韓国・ソウルから香港を経由して広東省恵州市へ渡航した韓国人男性が、現地の病院でMERSへの感染が確認され、強制隔離処分を受けた。男性は感染の疑いがあるとして病院から勧告を受けていたのを無視して中国に渡航した。韓国保健当局は関連機関への連絡をスムーズにできず、出国を許してしまった。また、男性は入国の際、「患者との接触はない」などと虚偽説明をしていたという。
韓国人の行動も行動だが、政府もどうかしていて、韓国外交部の関係者は、「男性の行為はあくまで個人的なもの。中国政府に正式に謝罪することはないだろう。もし逆の事態が発生しても、韓国政府は中国に謝罪を求めることはない」と発言したので、今度は中国人が怒った。ネットには「この事件で、韓国人は低俗で卑劣な民族だということを思い知らされた。道徳心というものは無いのか」という書き込みが相次いだ。
米ミネソタ大学のマイケル・オスターホルム教授は、「MERSのようなウイルスが病院で簡単に広がることは、医療スタッフは良く知っていることだ」と、韓国の医療機関のお粗末な対応に首をかしげる。WHOでMERSを担当するピーター・ベン・エンバレック博士も、1人が数十人に感染させる“スーパー伝播”は「病院の感染制御が不十分な時に、最も容易に起こる」と指摘している。
韓国政府の対応への批判もある。これだけ拡散したのに、韓国の保健福祉部長官は「国のイメージ」を気にして、政府のMERS危機段階を「注意」にとどめていることにも批判が高まっている。ロンドン大学のアラムディン・ジュムラ教授は、「ソウルに懸念すべき兆候がある」と韓国政府の対応の遅さを指摘し、「韓国政府はできるだけ早く、関連データを外部機関に提供し、国際的な専門家の支援を受けるべきだ」と述べた。
不手際続きのなか、米ニューヨーク・タイムズが掲載した風刺画が物議を醸した。7日、「韓国でMERSが発生」というタイトルの風刺画。北朝鮮の金正恩第1書記と兵士2人が国境警戒所を視察中、国境の鉄柵付近を荷物を持った人が3人歩いているというもの。金正恩第1書記は「韓国でMERS流行」と書かれた紙を手にしており、双眼鏡を持った兵士が「脱北者たちが戻ってきています」と報告している。
これが日本のメディアなら激昂したろうが、アメリカとあって、韓国内では「海外メディアが遠慮なくMERS問題を風刺している」と控えめな反発があがった程度だった。逆に朴槿恵大統領が防疫関係者を激励に出かけた写真には批判殺到した。
朴大統領は5日、患者が治療を受けているソウルの国立中央医療院を訪れ、医療スタッフを激励、「本当にご苦労様。MERS終息に力を尽くしてほしい」などと述べたというが、その際に撮られた写真(右)が、医療スタッフ2人は全身が防護服に覆われ、マスクもしっかりと着用をしているが、朴大統領はそれらはまったく身に付けていない。韓国のネットユーザーは「マスクが品切れで、朴大統領に回す分さえもなくなったのか?」とひやかした。「セオル号」転覆事件では遺族を見舞ったものの怒声に恐れをなし早々に引き揚げたのと同じで、国民の慈母というポース優先、格好づけばかりの姿勢が見透かされているのである。韓国の世論調査会社「ギャラップ」は5日、朴槿恵大統領の支持率が前週から6ポイント急落し、34%になったと発表した。レームダック化が進む一方である。
※表題の「うどんやの釜」は 地口(じぐち)の一つ。 饂飩屋の釜の中はお湯ばかりであることから、「湯ぅ」を「言う」に掛けて、口で言うだけで何もしないこと。