終電で乗り過ごしたとき、賢い酔っ払いは‥

忘年会シーズンに合わせて、東京・多摩西部を中心に路線バスを運行する西東京バス(本社・八王子市)が、JR中央線の中央特快最終電車で終点の高尾駅にたどり着いてしまった乗客を“救済”するバスの運行を始めた、という。

高尾駅の終バス

高尾駅の終バス


中央線は、新宿駅を午前0時11分に出発する中央特快高尾行きを利用して寝過ごしてしまうと、高尾駅到着は0時55分で、接続する上り電車はない。また、高尾山にほど近く、周辺に夜を明かすことができる施設も少ないため、週末などは駅近くで立ちつくす人も少なくないという。この救済バス、12日は6人、19日は24人が利用したそうだ(写真右)。

親切な世の中になったものだ。酔っぱらって終電で家のある駅を乗り過ごすこと4度5度、いや数え切れないブログ子の若き頃、ベテランを自称していて、「初心者」によく以下の心得を伝授したものである。

ブログ子は大阪育ちである。首都圏の人には耳慣れない駅名だろうが、社会部仲間などとキタやミナミで飲んでべろべろになって、難波駅にたどり着く。南海高野線の終電に乗るのだが、下車駅の狭山という駅まで40分ほどある。熟睡するにちょうどいい時間である。当然乗り過ごす。今ではかなり大きな駅になったようだが、大阪平野の南端に位置する河内長野という4つ5つ先の駅で目が覚めれば宿もあるしタクシーもある。

ところがここで目覚めることはまずない。やがて電車は山間部に入っていく。三日市とか千早口とか、天見とかいう、来年の大河ドラマ真田幸村の舞台になったところだが、急激に気温が下がってくる。冬でも夏でもだいたいこのあたりで目が覚めるのだが、あわてて下車する者は初心者である。

真田幸村が隠れ住んだようなところだから、駅前には宿もなければタクシーもない。下りたら途方に暮れるのだ。ブログ子のようなベテランはどうするか、悠然とさらに先の橋本駅まで乗り越すのだ。ここはもう和歌山県で、すぐそばを紀ノ川が流れている。有吉佐和子の「華岡青洲の妻」の舞台である。

まだ慌ててはいけない、駅前にはタクシーがあるが、来た道を山越えで戻るからべらぼうな時間と金がかかる。そこで賢者は宿泊を選ぶ。駅長に頼むとしかるべき駅前旅館と掛け合ってくれる。むこうは馴れたもので深夜の酔っ払いのために布団を敷いて待っている。

すってんてんまで飲んでいるから金がない。どうするか。母親に電話する。おふくろも慣れたもので、最寄りの狭山駅の駅員に頼んで始発の運転士に現金を託してくれる。田舎の私鉄なのでみな親切で、運転士か駅長が旅館までその金を届けてくれる。そこで支払って、来た鉄路を戻るのだが、自宅のある駅は通り過ごして、まっすぐ終点の難波駅まで行く。そして何食わぬ顔をして新聞社に出勤するのである。

かくのごとき秘策を多くの後輩記者に伝授してきたものだが、今ではバス会社が「帰りの便」の心配をしてくれる。軟弱な酔っ払いが増えるわけである。

コメントは受け付けていません。