トランプは思いのほか戦略家ではないか

そう思ったのは、 トランプ米大統領が1月26日放送のFOXニュースのインタビューで海軍の潜水艦を増やす方針を示した上で、メーカーに値下げを求める考えを強調したとロイター通信が報じたからだ。

トランプ米大統領は「候補者」の時から「米軍の再建」を施政方針に掲げている。南シナ海で海洋進出を強める中国に対抗するため海軍力を増強する構えで、インタビューでは「潜水艦が不足している。新しい潜水艦を建造するつもりだが、価格が高すぎる」と述べたという。

価格の問題は後述するとして、一般には海軍力増強というと米国の原子力空母や中国の空母「遼寧」といった大鑑巨砲を思い浮かべるだろうが、実は鍵を握るのは潜水艦なのである。中国の「遼寧」は、ウクライナで建造中止となった旧ソ連製空母「ワリャーグ」を鉄屑として購入し、あろうことかこれを再生して中国初の空母「遼寧」として就役させたもので、これをもって「時代遅れの大鑑巨砲」と揶揄されるが、陰では着々と原子力潜水艦の充実を図っている。

ブログ子の軍事知識は、戦後ゼロから出発した日本の海上自衛隊にあって、海面下の戦いの重要性を認識して着々と潜水艦隊を作り上げ「日本潜水艦隊の父」と呼ばれる「K海将」(故人)から得たものだ。氏が昔なら「連合艦隊司令長官」にあたる横須賀艦隊司令や六本木に防衛庁があった時代、防衛課長の席にお邪魔して雑談した。防衛課長室に入るときチラっと脇の部屋を見たら太平洋や日本海の大きな地図の上に小さな艦艇の模型が配置されているのを見た。潜水艦などの現在の位置情報という最高機密ではないかと思ったが、知らぬ顔をしていた。それほど信頼されて奥に通されたということだろう。

現在、日本の通常型潜水艦は世界最高峰レベルにある。横やりが入って実現しなかったが、オーストラリアが日本製潜水艦を導入しようとしたくらいである。原子力潜水艦は潜水艦と原子力技術の双方を持つ国でしか製造できないため保有国は限られ、現在、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インドの6ヶ国のみ保有している。日本は建造能力はあるが核アレルギーで世論が許さない。

原潜の利点は、通常型潜水艦では行なえない弾道ミサイルの発射プラットフォームとして使える(戦略ミサイル潜水艦)点だ。アメリカ海軍は21世紀に入って、弾道ミサイル搭載型を、巡航ミサイルの発射プラットフォームである巡航ミサイル潜水艦へと改造を急いでいる。これにより中国本土にあるミサイル発射基地は瞬時にして破壊できる能力を持つといわれている。中国が埋め立てて海洋基地化を図っている南シナ海のスプラトリー諸島 (南沙諸島)、東シナ海にしても同じである。圧倒的海軍力(=潜水艦)を持っているから中国を恐れなくてもいい理由はそこにある。

その潜水艦能力を増強するというのだからトランプ大統領の軍事知識もかなりのものである。そこで冒頭に掲げた高い建造費についてである。大統領就任前、最新鋭ステルス戦闘機F35や大統領専用機「エアフォースワン」についても値下げを航空機メーカーに要求。ロッキード・マーチンやボーイングは直ちに降参してコスト削減に取り組む姿勢を示した。

アメリカの軍需産業の高い言い値にペンタゴンが唯々諾々としてきたのは否めない。それにつられた高値で日本やNATO諸国に輸出できるからますます経営は安泰だったが、トランプ大統領はこの「聖域」に手を突っ込んた。メーカーも従うしかなかった。

アメリカの原子力潜水艦製造の2大メーカーと言えば、ノースロップグラマンとゼネラルダイナミクスだが、これまた値下げ要求を呑むしかないだろう。 原子力潜水艦の原子炉は100%加圧水型で 米国唯一のPWR(加圧水型原子炉)製造メーカーだったウェスチングハウス社は、 業績不振からイギリスの企業体に売却され、さらにイギリスから日本の東芝に売却された。同盟国の間をたらいまわしである。ただその東芝がアメリカでの原発建設で巨額の赤字を出し銀行団からの緊急融資をうけるという経営危機にある。

ステルス機F35の部品の3,4割が東レの炭素繊維をはじめとする日本製だというのは広く知られたことだが、原子力潜水艦でもまた同様である。部品の大部分が日本製で、下請OEMで東芝や三菱重工が造っているといっても過言でない。つまり日本の技術力がないとアメリカの原子力潜水艦は造れない現実がある。日本との軍事同盟を強化する以外にアメリカの安全保障もまた強化されないのだ。

そんなわけで、ブログ子など一連のトランプ発言を聞いていて、安全保障では結構やるのではないか、と期待感を持つのである。

 

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