広辞苑を10年ぶりに全面改訂、第7版を来年1月刊行すると岩波書店が発表したのは先月下旬。
平成20年に刊行された第6版より総項目数は1万を加えた約25万項目になる。今回の改訂では、基礎的な動詞や形容詞の説明刷新に力を入れたほか、「ブラック企業」「LGBT」「婚活」「スマホ」「ツイート」など、第6版刊行後の社会や技術の変化を受けた言葉を多数収録。
人名は1月に米大統領に就任した「トランプ」をはじめ、「高倉健」「赤塚不二夫」「ジョブズ」「スピルバーグ」などが追加。俗語では「がっつり」「ごち」「ちゃらい」など、定着したと判断された言葉が採用されたほか、「炎上」の項では「インターネット上で、記事などに対して非難や中傷が多数届くこと」という新たな説明が加わったという。
ところが、その新改訂では「台湾は中国の省の一つ」などと書き替えられたため、台湾の人たちから猛烈な抗議の声が上がっているという。
台湾出身の評論家・黄文雄さんのメルマガによると、広辞苑の中における台湾についての表記が問題だと言われているのは、次の3点だという
●台湾の項目にある「1945年日本の敗戦によって中国に復帰し、49年国民党政権がここに移った」。
●中国地図に、台湾が中国の26番目の省として記述されている。
●日中共同声明の項目の記述で、「日本は台湾が中華人民共和国に帰属することを実質的に認めた」という記述。
メルマガでは、広辞苑記述について一つずつ根拠と資料を挙げて誤りを指摘しているが、少し台湾の戦後史を知っているなら、明らかに間違いだと気づくことばかりである。それを改定版に名を借りて書き加えたのなら。恣意的に中国サイドに立った編集意図が見えてくる。
岩波書店は老舗中の老舗ではあるが、近年では「進歩的知識人」の拠点とされている。特に雑誌「世界」は左翼の論壇誌として君臨し続けてきた。記述を見ると明らかに左翼、それも中国から見た歴史観、世界観で、現在の台湾の実情とはかけ離れている。
日本が併合していて戦後独立した台湾は、韓国と違っていまだに声を大にして親日を掲げる国である。抗議の声が上がっているというのを聞くと胸が痛む。
黄文雄さんが書いている。「中国も台湾も、ともに戦後はいばらの道をあゆんできましたが、それぞれが違う道を歩んでいたわけであり、台湾が中国の一部として歩んできた歴史は一日たりともありません。」
これは広辞苑の犯罪である。彼らが「炎上」について加筆した通り、避難や中傷が多数届いているのもうなづける。