近ごろこれほど笑える話はない。選挙区内の有権者に初盆参りで線香を配ったことが、公職選挙法が禁じた有権者への寄付行為に該当する、と茂木敏充経済再生担当相の「線香疑惑」を追及した旧民主党の幹部たちである。
「辞めるべきだ」と舌鋒鋭く迫ったまではよかった。ところが、翌日には希望の党の玉木雄一郎代表や立憲民主党の近藤昭一副代表ら野党議員にも茂木氏と同じ線香や香典代などの支出が続々と発覚した。旧民主党以来の“お家芸”であるブーメランの”光速”級の返し技である。
玉木氏が代表だった「民主党香川県第2区総支部」が、「慶弔費」として24年まで毎年56件計29万5千円を計上していた。「秘書が葬儀に参列して持参した。政党支部の活動として支出したもので、公職選挙法に基づいたものだ」などとのコメントを発表した。茂木氏と全く同じ弁明である。
茂木氏について「出処進退を自ら判断すべきだ」と記者会見で述べ、暗に辞任を促していた人間が、3日後にこれである。少しは己の足元を調べてからものを言ってもらいたいものだが、自分が口にした出処進退論からすれば代表辞任すべきだろうに口を拭って知らん顔である。
公選法では、政治家本人や後援会が選挙区内の人に金品の寄付を行うことは、冠婚葬祭の贈答を含め、原則として禁止されている。だが、政治家が代表を務める政党支部であれば、「政治家の名前を出さなければ寄付してもよい」という抜け道があるザル法
ゆえにいくら議論しても果てしがない話なのである。
わずか2年前、民主党改め当時民進党の政調会長だった山尾志桜里衆院議員にも同じ香典問題が発覚した。山尾氏は、香典や葬儀用の生花代の支出元を、自身の後援会から党総支部に変える政治資金収支報告書の訂正を行い、記者会見を開いて 「政党支部が支出することは禁止されていない、というのが民進党の統一見解だ」と公言した。
いまでは四分五裂したが、わずか2年前の民進党の統一見解である。今ブーメランにあっている元・民進党議員なら「学習」してもよさそうなものだ。その後、不倫問題で「むき出しの好奇心には屈しない」と大見えを切った人にも民進党政調会長時代に「線香疑惑」があり、統一見解を出していたことを、誰も知らないようである。山尾氏は現在、立憲民主党に所属している。。 立憲民主党の枝野幸男代表は民進党時代に幹事長だった。枝野氏は当初、茂木氏を批判していたが、2日は山尾氏について記者団に聞かれると「立憲民主党に入ってからの話でもないので、必要があれば本人が説明するのではないか…」と逃げの一手だ。
元民進党代表で現在は立憲民主党にいる蓮舫参院国対委員長は1日の参院予算委で「線香をタダで配る、政治活動の目的を教えてください」「線香を配ると党勢が拡大するのか」と厳しく茂木氏に迫った。これまた、盟友の山尾氏が政党支部による支出を「民進党の統一見解」と公言していたことを知らないようである。2年でみな健忘症になるようだ。
立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は3日、「線香問題」について「法改正も含めて見直さなければいけない」と述べ、公職選挙法の改正を検討すべきだとの考えを示した。法律が現状に合わなくなっているから改正するというのは全く正しい。そのために立法府がある。
辻元氏にはこの際、現状に合わないうえ、日本語として正しくない日本国憲法についてもぜひ「改正」をお願いしたい。その程度の「ノリ」ですむ話だと思うので。ドイツなど戦後「数十回」憲法改正をしていることもお忘れなく。