「口説の徒」知事列伝

千葉、静岡、愛知・・・太平洋岸ベルト地帯の知事が「口説の徒」と化している。玉が悪いのか、選んだ県民のポピュリズムが悪いのか。

暴露されたのは、千葉県内に甚大な被害をもたらした台風15号が上陸した翌日の9月10日、森田知事が公用車で芝山町にある別荘に入っていたという、災害時に指揮すべき立場にある知事としてまじき行為なのだが、釈明の会見で展開した屁理屈はこうだ。

 『文春』が「この男に千葉県知事の資格はあるか」と報じたのが森田健作・千葉県知事。台風被害の最中に別荘へ帰っていたというのだが、その言い訳会見というのが、輪をかけて世間を呆れさせた。

「あそこは別荘でなく自宅だ。私は必ず公私を分けて自分の車を使う。県庁に車を手配したが、出払っていて芝山の自宅で乗り換えを調整した。自宅の状況を見るなどしたが、滞在は約10分で、富里市などを30~40分ぐらいかけて車から視察した。町並みもふくめて、電力はどうだ、断水はどうだと頭に浮かべながら見た。これは私の政治のスタイル」

「私的視察とはなんだ」という批判が一斉に起こったのも当然だろう。笑えるようないい訳である。いつもテレビを意識していて大仰に両手を広げて相手に近づき握手する光景を見るたびに、大丈夫かいな?と思っていた。

自分は年間141日休んでいながら、台風被害で千葉県が大停電に陥ったときには「東京電力にはぜひとも不眠不休でやってもらいたい」と述べるなど、どうにも知事の”資質”に欠けるのだ。

知事の”資質”という点では静岡県の川勝平太知事も人後に落ちない。 JR東海が令和9(2027)年に東京・品川-名古屋で先行開業を目指すリニア中央新幹線。開通によって品川-大阪間が約1時間で行き来できるようになり、大きな経済効果が期待されているが、この工事にイチャモンを付けているのがこの知事だ。

リニアが静岡県を通るのは、南アルプスの山岳地帯を貫く8・9キロの区間だ。この区間は大井川の水源地帯に当たるが、「工事完了以降、大井川の流量が毎秒2トン減少する」との試算がある。

これに目をつけた川勝知事は「大井川は県民の6分の1にあたる約60万人が水道用水や工業用水、農業用水に利用され、水量が減った場合の影響は計り知れない」と言い出した。

JR東海はトンネル内に出る湧水を全て大井川に戻すと提示したが、知事は「どこの地点にどのように戻すのか、全然詰められていない」とはねつけ、事態は暗礁に。国土交通省は今月、JR東海と県の調整役を担うことをかって出たが、これにも知事は「国交省鉄道局が中心的な役割を果たしている。(これでは推進派の意見がまかり通るから)河川局や環境省も入るべきだ」と注文を付けている。

全線500キロのうち静岡県を通るのはわずか8・9キロである。いわば「500分の8・9」の発言権しかないはずの静岡県が、JR東海の足元をみて、振り回している図式である。

この区間、全線の0.2%にも満たないが、ルートで最大難所の一つとされている。すでに隣接する山梨、長野両県は28年までに着工している。それだけに、JR東海としては一刻も早く着工したいが、静岡県のために開業遅れの事態も想定され始めている。

静岡県はこれまで地元出身の知事がつとめてきた。川勝知事は長野出身の「よそ者」で、浜松にある県立大学で教壇に立っているとき、おりからの民主党ブームで担ぎ出された。鳩山由紀夫、菅直人の「悪夢」の時代が過ぎたあとも、「シャッポは誰でもいい」という保守的な県民性に乗って再選を果たしているが、これまでも民主党的な「反対」ぐせが随所に出ていた。

中部電力が政府の要請で全面停止した浜岡原発(御前崎市)についても 「限りなく再開できない状況。「安全かどうか、コスト的に本当に合理的な選択かどうか、 全部チェックする。100パーセント以上安全でなければ動かせない」 と豪語している。

国が運転再開を認めた場合でも、 県独自の基準で再開の是非を判断するというのである。今回のリニアでのちゃぶ台返しと同じパターンである。

最後の「口説の徒」は愛知県の大村秀章知事である。愛知県で開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の作品公開を認めた張本人である。

昭和天皇の肖像をバーナーで焼き、残った灰は地足で踏み付けられ、鮮血を想起させる赤い液体がしたたるなか、下駄を履いた女性の白い足が横切る。また、慰安婦像とされる少女像や、英霊を冒涜する作品など、とんでもない「芸術」で、文化庁が補助金交付を拒否したのは当然である。

これで一旦公開中止になったのだが、芸術祭の実行委員会会長を務める大村知事は10月8日に再公開に踏み切った。その上、補助金全額不交付を決めた文化庁に、補助金適正化法に基づき不服を申し出たり、再開に抗議する名古屋市の河村たかし市長が、会場の愛知芸術文化センター前や県庁前で座り込みを行ったことに、ツイッターで「県立美術館の敷地を占拠して、誹謗中傷のプラカードを並べて、美術館の敷地の中で叫ぶ。芸術祭のお客様の迷惑も顧みず。常軌を逸してます」と建前論を並べて非難した。

常軌を逸しているのは己の方ではないかと逆に批難されたほど。 昭和天皇を侮辱する企画を許しておきながら自分は、「即位礼正殿の儀」に列席する図々しさに世間は呆れたものである。

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