菅官房長官のマスクに見るアイヌ新法の危うさ

 菅義偉官房長官は記者会見で、アイヌの紋様の入った布製マスクを着用して現われた(7日)。「北海道・登別のアイヌの方からちょうだいした。手作りで、刺繍の紋様には病気を身体に入れないという魔よけの願いが込められているという。お守りをかねて、アイヌ文化の発信にも資することから着用している」と明かした。

アイヌの魔除け紋様入りマスクの菅官房長官

朝日、毎日ほかの新聞と違って、当ブログは「アベノマスク」や「スガノマスク」にまでケチを付ける気はない。しかし、ここ数年の菅官房長官の異様なまでのアイヌへの「入れ込み」を危ういと感じている。

春の叙勲で、北海道アイヌ協会理事長の加藤忠さん(81)=白老町=が、旭日小綬章を受けた。 この勲章は勲四等に相当し、対象者は、政令指定都市の市長、特別区の区長、民間では国際的に高い評価を得た企業の最高責任者に与えられる。一団体の理事長には異例の厚遇である。

平成31年(2019年)4月19日に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ新法)が成立した。

法律として初めてアイヌを「先住民族」と位置づけ、差別の禁止、アイヌ文化を生かした地域振興策を行うための交付金制度の創設等を定めた。同法のもと、政府はアイヌ政策推進本部を設置し(座長は菅官房長官)、政府や自治体の責任で産業や観光の振興等に取り組み、経済格差の是正を図るとしている。

アイヌ新法成立に先駆け、トップの菅官房長官は2018年8月、阿寒湖畔のコタンに乗り込み、「それなりの助成金」と東京五輪では日本の先住民族としてアイヌの踊りを披露すること、新法成立1周年までに胆振の白老町に200億円の巨費を投じて建設中のアイヌ文化の発信拠点「民族共生象徴空間」=愛称ウポポイ(アイヌ語で「大勢で歌う」)=を間に合わせるなどのリップサービスにこれつとめた。(武漢コロナで今年5月29日開館予定は延期)。

阿寒湖のコタンでアイヌ代表と懇談する菅官房長官(2,018年8月)

アイヌ新法は、寅さんではないが、一見「結構毛だらけ猫灰だらけ」の趣旨である。しかし、アイヌの現状を知る人から見ると、これは第二の「同和対策特別措置法」になる危険を内在している。

国策としての同和対策事業は、1969年(昭和44年)に国会で成立した同和対策事業特別措置法(同和立法)により、当初は10年間の時限立法として開始したが、社会党が延長、延長を図り結局、2002年(平成14年)に終了するまで、33年間で約15兆円の国家予算が投じられた。

国費だけで15兆円である。これに加えて各自治体が部落解放同盟の要求でどれだけの予算を食われたか。ブログ子が取材して知っている例では、大阪・羽曳野市では同和対策費は一般会計の4割に達した。人件費が半分ほどだから、市としてはほとんど何もできない。結果、同和地区の小学校は防音装置付きの音楽室や温水プールができ、市長室の隣を解同に取られて4階から「差別反対」宣伝の垂れ幕が下りていたものである。

アイヌ新法はこうした「反差別」運動の悪しき二の舞になる危険を含んでいるのである。

同法は平成19年(2007年)の国連宣言で先住民族の権利とされた自決権や教育権等まで認めてはいないが、すでに権利を求めての事件が起きている。

昨年秋、紋別アイヌ協会の畠山敏会長(78)がサケの密猟で検挙された。紋別市内の藻別川に網を仕掛け、翌朝、サケ約60匹を無断で捕獲した。

調べに対し「サケはカムイチェプ(神の魚)として神に供える。和人の許可は要らぬ」と言い張った。

今年1月、麻生太郎財務相が“(日本は)一つの民族”と発言したことに批判が殺到した。アイヌ新法では日本の「先住民族」としている。日本は一つの民族で成り立っているものではない、というのが批判の理由であるが、実はアイヌは先住民族ではない。

30年ほど前になるが、ブログ子は北方領土に絡んでの取材で戦後に北方4島から強制移住させられた人たちに会ったことがある。北海道庁がセッティングしてくれたもので網走にできたばかりの北方民族博物館で10人ほどがいた。

北方民族とは極めて寒い地域に暮らす人々で、ナナーイ族やイヌイット、エスキモー、アイヌなど、世界全体には現在、38種族ほどの北方民族がいる。

驚いたのはギリヤークと名乗った人たちは全く西欧人の顔立ちであった。ギリヤークは現在ではロシア語からとった「ニブヒ」というが、当時は彼ら自身がギリヤークであると名乗っていた。

ギリヤーク人はかつて7~13世紀頃に、知床半島あたりからオホーツク沿岸、樺太、沿海州のアムール河河口にかけて住んでおり、オホーツク文化人として羅臼などに遺跡を残している。

その後はアイヌ人に押されて北海道オホーツク沿岸からは消えてしまった人たちである。坂上田村麻呂の時代、青森のあたりの海岸に逃げてきた北海道のアイヌ人たちが、異民族(ギリヤーク人と思われる)が北から攻めてきたので難を逃れてここまで南下して来たのだと、話したことが記録に残っている。

ブログ子はアイヌしか知らなかったが、実は日本国は、大和民族だけで成立しているのではなく、アイヌ人、ギリヤーク(ニブヒ)人、オロチョン(ウィルタ)人、小笠原白人などからなっているということを初めて知った。

アイヌと一言で片付けているが、実はアイヌは北海道だけにいたのではなく、大きく北海道アイヌ、樺太アイヌ、千島アイヌと、文化や言葉を独自に持つ3つのグループに分けられる。別な民族と言ってもいい。

樺太アイヌは歴史に翻弄されてきた。1875年、樺太を手放す代わりに千島列島を日本領とする「千島樺太交換条約」が日露間で結ばれた。先住民族の主権を無視したこの条約によって、樺太アイヌはロシア国籍を取って樺太にとどまるか、樺太を去るかの二者択一を余儀なくされる。当時、2400人ほどいた樺太アイヌのうち、漁業を通じて日本との関わりが深かった841人が対岸である北海道北部の宗谷地方へと移り住んだ。

 その樺太アイヌの団体である「樺太アイヌ協会」は、アイヌ新法に反対している。法案が国会で可決する前の昨年2月、会長の田澤守さんが発表した声明書にはこうある。

《私達、樺太アイヌ(エンチウ)はアイヌ新法案の作成過程から排除されてきました。新法案の中身にも樺太アイヌを対象としたものがありません》

この一事で、アイヌ新法がどういうものかわかろうというものだ。アイヌのごく一部を対象にした法律なのである。

アイヌ民族は現在ではほとんど絶滅に近い存在である。コレラなど感染症に弱かったこと、差別から逃れるため日本人に同化していったこと、いろいろ原因がある。

現在どのくらいいるか、統計資料はないが登別、白老、網走、樺太アイヌのいる稚内入れても千人前後くらいであろう。

それがアイヌ新法施行で爆発的にアイヌ人が増えることが予想される。なぜなら「アイヌ人」と認定するのはウタリ協会とされているからである。

予算が下りるとその分捕り合戦が起きるのは同和対策特別措置法で経験済みである。助成金や補助金が出るとなると、われもわれもが申請に馳せ参じ、たちまち何万人、何十万人というアイヌ人が出現するのである。

菅官房長官のマスクくらいはご愛嬌だが、近い将来、再び差別を補償するための金がばらまかれ、それをもとにアイヌは一大圧力団体と化すであろう。

実に危ういのがアイヌ新法である。

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