衆議院議員総選挙は、自民党がやや議席を減らしたものの、単独で絶対安定多数を確保(261議席)、野党は立憲民主党が議席を減らして(96議席)枝野幸男代表のクビが飛び、日本維新の会が議席を4倍に増やした。
この選挙で惨めだったのが新聞、テレビなど報道各社による事前の情勢調査や予測記事がことごとく外れたことだ。
報道各社の事前予測では、
▼「自民“単独過半数”は微妙な情勢」(25日、FNN)、
▼「自民の単独過半数維持は微妙」(28日、読売新聞)
▼「自民議席減・与党過半数の公算 立憲上積み視野」(21日、毎日新聞)
▽「自民が単独過半数確保の勢い、立憲はほぼ横ばい」(25日、朝日新聞)
終盤、具体的に議席数をあげる段階で、
▼「自民218~246、立民126~151、共産16~19」(産経)
▼「自民212~253、公明27~35、立民99~141」(NHK)
▼「自民231、公明33、立民137」(週刊文春)
▽「自民251~279、公明25~37、立民94~120」(朝日」
開票が始まった段階でも、
▼「自民240、公明30、立民111」(池上彰氏仕切るテレビ東京)
新聞は朝日以外は産経を筆頭に大外れもいいところ、テレビは全敗である。前回の総選(2018)でもメディアの予測は外れたが、今回ほど惨めなものではなかった。
ブログ子が現役の頃、何回か総選挙報道を経験したが、そのころ最も選挙予測で信頼されていたのは新聞では朝日、テレビではNHKであった。特にNHKは金に糸目をつけず、大規模に調査員を動員して全国規模でやるから正確さに定評があった。しかしデータは、報道の参考として政治部中心に回覧されていて直接放送されることはなかったので永田町関係者から「なんとか見せてもらえないか」と頼まれるほどだった。そのNHKすら今回は大外れだから、何をかいわんやである。
なぜ、こんなことになったのか?ブログ子には心当たりがある。
半世紀ほど前の旧聞に属するが、学生時代に札幌で朝日新聞の選挙予測のアルバイトをしたことがある。初任給1万5000円時代に調査票1枚1000円ほど、5枚で5000円くれるので魅力的なバイトで希望者は多かった。札幌支社の一室に集められ、まず統計学の「講義」を聞かされた。
統計学の理論では「階層化」が大事だということ。選挙なら男女別、年齢、居住地、職業(自営かサラリーマンか)など。この作業、サンプリングと呼んでいるが、統計学では200あればほぼ正確に出るとされるのだが、朝日では2000部調査票を集めていた。
具体的作業は、市役所の出張所にある住民票の簿冊を閲覧して、何番目の簿冊の、何番目の世帯主、そこから選挙権がある何番目の人・・・というふうに選び出し、その人物に直接調査票を書いてもらう。回収にまた出かけるのだが、勤め人だと夜遅いことがあるから帰るまで外で待っている。
こうした地道な調査を知っているから、同じメディア側に立つようになっても、朝日が「選挙報道の朝日」と自賛しても、さもありなんと認めてきた。他の新聞社も程度の差こそあれ同じようなサンプリングでデータを取っていたからそれなりに信頼度は高かった。NHKは加えて投票日の「出口調査」に力を入れてきたから午後8時の開票作業開始と同時に当確を打つなどみな自信満々であった。
ところが新聞はみな落ち目になった。部数減でカネがかかる選挙予測が負担になってきた。幸いなことにテレビはみな新聞社がダミーになって設立した経緯がある。取って代わって隆盛を誇るテレビに寄っかかるようになった。産経に例を取るとFNN調査、つまりフジテレビと協同調査となっているが殆どの調査金額はテレビ持ちといった塩梅である。これは他の新聞も同じである。
時を同じくして調査方法が手軽なRDD方式に取って代わり、これを専業とする調査会社に委ねるところが多くなった。これはコンピューターで発生させた電話番号に掛け、出た人から調査票に聞き取るもので、上述のサンプリングでいうと「階層化」がなってないという欠点がある。加えてこの調査方法では「聞き直し」の有無で大きな違いが出てくる。
「聞き直し」というのは「まだ決めていない」「どちらでもない」と答えた人に、再度、今はどうですかと問い直すことである。各社の調査で政党の支持率などでに違いが出ていることが多いが、「無党派層」から、その違いの分を引くとだいたいその誤差に該当するものである。
さて今回の議席予測で朝日が唯一、実際の議席に近かった理由だが、多くのメディアが頼った従来からの情勢調査の手法(RDD)ではなく、インターネットで回答を募る「ネットパネル調査」を基に小選挙区の予測をしたことによるという。朝日によると、調査会社4社に委託し(金を払って)各社に登録されている登録モニターを対象にした、と説明しているが、これまでこの方法は、サンプルが偏るために情勢調査には不向きとされてきた。第一、登録モニター対象というのでは、上述のサンプリングでいう階層化が出来ているとは言い難い。統計学的な理論的説明が必要であろう。
NHKが外れた理由だが、次第に増えている期日前投票の把握が出来ていないからではなかろうか。いくら金に糸目をつけないNHKでも、投票日までの長い期間、バイトに出口調査に当たらせるわけにも行かない。与野党の固定支持層はこの期間に投票に出向くであろうから、この数値が読み込めないということもある。