くだらない「記者質問」が多すぎる

以前にはなかったことだが最近、記者会見がテレビ中継されることが多い。元新聞記者として見ていて、「質問が長すぎる。要するに何が聞きたいんだ」といらつき、腹立ち紛れにスイッチを切ることもある。

最近の例から挙げる。立憲民主党の枝野幸男前代表が先の衆院選で敗北した責任をとって辞任、12日に開かれた記者会見がネット中継されたときのことだ。ぐだぐだと「質問」する記者に、枝野代表が「ここはあなたの意見を聞く場ではない」ときっぱり拒絶したのだ。なんでも反対、口を開けば「政権を寄越せ」の代表が最後に見せた対応は立派だった。

再現するとこうだーーー。ネットメディア「インディペンデント・ウェブ・ジャーナル」(IWJ)の記者というのが、ながながと自説を繰り広げた。

「衆院選では意図的に隠されていたが、本質的な争点は緊急事態条項(の創設)を核とする自民党4項目の改憲か、その改憲案に反対かであったことは明らかだ。立民は自民党の改憲4項目に反対する改憲反対派としてこの国の市民、国民に重大な責任を負っているのではないか(中略)。後継の代表選に名乗りを上げた人物には、自民党より改憲に貪欲な姿勢をみせる方もいる。代表人事を誤ればこの国の未来を危うくする。(後継指名する場合)緊急事態条項は絶対に許さないと、今度こそこの問題を焦点に据えて野党共闘で戦うことを条件として提示するか」

この記者は左派らしく「(枝野代表は)辞任の必要はない」という主張も含めて質問時間はなんと3分を超えた。

枝野氏は「申し訳ないが、あなたの意見だと思う。記者会見はあなたの意見を聞かせてもらい、そのことに答える場ではない。あくまでも中立的立場の報道機関の皆さんに対して説明をする場だと思っている」と打ち切ろうとした。

IWJ記者は、なおも「質問は自らの意見でなく、常に市民から要請や意見を頂戴し、その事実に基づいて総合的に判断している」と反論したが、枝野氏は「私たちの考え方と百八十度違う社説を載せている社もいるが、そういう社もここでは中立性という立場に立った前提で質問をもらっている。そこを整理しないと会見が混乱する。そもそも選挙の争点はあなたが決めるものではない」。

このやりとりを受け、朝日新聞記者が応援のつもりか「中立性という言葉は恣意的な解釈の幅がありうる。ネットメディアやフリーランスを排除することはないのか」と質問。枝野氏は排除を否定したうえで「『こういう意見もあるがどうか』みたいな話は当然あるだろうが、それを延々と話してもらう場ではない」と答えた。

さらに別の同じ仲間と見られるフリー記者が「記者差別、排除につながる問題発言だ。(4年前の希望の党合流をめぐる)排除発言から生まれた立憲民主党の代表とは思えない暴言だ」と批判し発言の撤回も求めたが、枝野氏は応じなかった。

◇ ◇ ◇

自民党の高市早苗前総務相が党総裁選への出馬表明記者会見もひどかった。会場にいた「報道関係者」が森友学園をめぐる問題について「再調査するのか」「話さないのか」と怒鳴り声を上げた。高市氏は「一人の公務員が大変追い詰められ、命を絶った気の毒な事件だ。こういった改竄が絶対に起こらない体制を作る」などと説明したがおさまらず、さらに

「安倍晋三前首相への忖度か」「安倍氏の傀儡ではないか」と怒鳴り続けたため、別の報道関係者が「やめろよ」と制止に入った。高市氏は「そこまでやじり倒さないでください。本日はありがとうございました」と締めくくった。

男は横田一という左翼活動家で、小池百合子知事の記者会見で「(前原代表が)希望の党に公認申請をすれば、排除されないという説明をしたのですが、あなたは、安保、改憲を考慮して一致しない人は公認しないと言っている。どうなのか」と迫り、小池知事から「排除されないということはございませんで、排除いたします」という答弁を引き出した人物。

本人は、高市会見で大声を出したことを認めた上で「ルールやマナーを守っているばかりでは、聞くべきことが聞けなくなる。相手を怒らせて本音を引き出すというのは、インタビューの常套手段ですよ」としらばっくれる。

◇ ◇ ◇

毎日開かれる官房長官記者会見で長々と質問するので有名なのが東京新聞の望月衣塑子記者。政府高官が彼女の長ったらしい話を非難し、彼女の質問を完全に遮るということもよくある。彼女が北朝鮮について質問すると、菅義偉官房長官(当時)は「あなたの個々の質問にお答えする必要はありません」と言い返して、演台からつかつかと立ち去ったほどだ。

◇ ◇ ◇

11月15日に千代田区の日本記者クラブでの大谷翔平凱旋記者会見もひどかった。およそ1時間の会見は、NHKやネットでもライブ中継され、数多のメディアが思い思いの質問をぶつけた。しかし、その内容は高額納税者として日米の税制についての見解や、帰国後の初めての食事、プライベートでの結婚観についてなど……。本筋の野球からは外れた内容のものばかり。

米スポーツ専門放送局『FOX Sports』のアナリスト、ベン・バーランダー氏は、1分あまりにわたった冒頭の質問を自身のTwitterで「僕は流暢な日本語を話せないけど、この質問は長すぎる」と一刀両断。そのうえで、「「記者会見が今終わった。ショウヘイ・オオタニは彼らが尋ねた質問よりも遥かに価値がある。この男は、史上最も素晴らしいシーズンを過ごし、MVP受賞まで数日と迫っているんだ」と皮肉った。

もっとひどかったのは、 元日本ハムの投手で、野球解説者としてテレビに出ている岩本勉氏。自身があてられると、「会場の皆さん、世界でこれだけ活躍している大谷翔平選手が、華々しく日本に帰ってきてくれました。まずをもって大きな拍手をお願いします」と報道陣に拍手を求めた。さらに「ロングタイムノーシー ハウアーユートゥデイ(お久しぶりです。今日はご機嫌いかがですか)」と英語で語りかけて、まわりを唖然とさせた。

ブログ子は日本記者クラブの会員でもあり、少し知っているが、会員資格は「新聞記者で、入会には会員2人の紹介が必要で、毎月6000円(今は5000円)の会費納入者」で、会見場に入れるのは会員社及び会員である。野球解説者がどうして“取材者”として出席できたのか。おそらくテレビ番組の関係者が名義借りしたのだろう。

◇ ◇ ◇

ブログ子の観察だが、記者会見での「問題児、馬鹿質問」は政治問題では左翼・リベラル系、皇室問題では女性誌、スポーツ選手相手では運動部記者、タレント・女優相手では芸能記者が多い。

政治家の記者会見が面白くないのは確かである。経験で言うのだが、それには理由がある。総裁選などの立候補者、官房長官会見‥これらは政治部記者にとって「表向き」でしかない。本音はそれぞれの「番記者」が夜回りや、派閥の有力者を回って仕入れるしかない。誰が入閣予定者の名前を記者会見でしゃべるものか。

裏取材の世界だが、記者クラブ制度が閉鎖的だという批判にさらされている。また会見がそのままテレビやネットで中継されるのが普通となり、フリーランスの記者ややネットメディアの記者も参加する開放的な傾向にある。フリー記者で懸命に取材していてそれをぶつけてくる人もいるが、中には自分がテレビに写りたいがためとか、目立ちたい、持論を展開するだけといった、邪道に陥っている者など鋭い質問とは言い難い輩も少なくない。

ジャーナリストとは本来「新聞記者」の意で、自分で取材して、何らかの発表手段を持つ者である。「質が落ちた」というのは簡単だが、ここらで是正しないと、見限られることになるだろう。

コメントは受け付けていません。