現地時間4月14日(日本時間4月15日)、ロシア海軍黒海艦隊の旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦「モスクワ」がウクライナ軍の地対艦ミサイルで撃沈されたニュースは衝撃だった。
、ロシア国防省の発表では、「モスクワ」は前日に爆発炎上し総員退艦、その後まだ浮いていたのでセヴァストポリ港に戻ろうと曳航中に悪天候で浸水、沈没したというが、これは明らかにウソである。ウクライナ側の地対艦ミサイル「ネプチューン」2発により船腹に穴が空き、退艦の間もなく、沈没した模様だ。まだ未確認だが艦長以下殆どの乗組員が艦と運命をともにしたという情報がある。
例えて言うなら日本海海戦で旗艦「三笠」が撃沈され、東郷平八郎・連合艦隊司令長官以下全乗組員が死んだというに等しい損害だ。加えて「モスクワ」はオデッサなどウクライナ南部の制空権を握っていた広域防空艦だった。長射程の対空ミサイルを持ち、この地域の制空権を握っていただけに、その損害の大きさは計り知れない。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたことになる。もうひとつ、これでロシア軍は揚陸艦隊を出してオデッサなどでの上陸作戦を行うことがほぼできなくなった。地対艦ミサイルの威力を知ったからである。
ウクライナ側の発表では乗員510人全員が死亡したと主張する。これを裏付けるロシア側の動きが伝えられている。「モスクワ」の母港であるセヴァストポリで「モスクワ」の乗組員の「追悼式」が行われ、供えられた花輪には、「船と船員に捧ぐ」と書かれた献辞が読み取れる。全員死亡かどうかは別にしてかなりの犠牲者が出たことは明らかなようだ。
しかも、犠牲者には艦長のアントン・クプリンも含まれるという。ロシア国防省が「全員退艦したあと、木曜日の夜に船内の火災が原因で沈没した」とするが、虚偽である可能性が高い。
「全員退艦、曳航中に荒波で‥」というロシア国防省発表がウソ臭い理由は「モスクワ」を撃沈したウクライナの地対艦ミサイル「ネプチューン」の特性からも読み取れる。「ネプチューン」は亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能を保つ。ウクライナ国産の新兵器で少し前に生産に入ったばかりで、最初の1個大隊の編成完了が4月の予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合った兵器だ。
攻撃はトルコ製バイラクタルTB2無人偵察攻撃機などでまず洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順で、ウクライナ側の発表ではオデッサの海岸近くからセヴァストポリ沖に遊弋中の「モスクワ」に発射された。発射機は4連装で海面すれすれに飛び、目標艦の喫水線近くを破壊する。命中すれば直ちに浸水するから、ロシア側が言うような退避や母港に曳航中などの余裕はなかなか取れないものなのだ。
「モスクワ」をめぐるもう一つの話題がある。ウクライナ侵攻が始まった2月24日、巡洋艦「モスクワ」は黒海に浮かぶウクライナ領のズミイヌイ島(スネーク島)を攻撃し、駐留する国境警備隊員に降伏を促した。すると兵士は「ロシアの軍艦よ、くたばれ」と降伏勧告を拒否した。攻撃で全員死亡したとみられていたが隊員らは生存が確認され、3月24日に捕虜交換で解放されていた。
この国境警備隊員の勇敢な姿はウクライナ国内で称賛を集めたが、国境警備隊員が叫んだ通り、「くたばった」のは「モスクワ」の方だった。ウクライナ郵便局は、急遽、巡洋艦「モスクワ」に中指を突き立てる姿を描いた切手を100万枚印刷発売した。英BBCは14日、「モスクワ」が沈没したというニュースを受けて、ウクライナ国内の郵便局に行列ができていると伝えた。
またこの台詞を吐いた兵士、ロマン・グリボフ氏は捕虜交換で釈放されたあと、故郷のチェルカースィ州に戻っていたが、急遽チェルカースィ州知事の表彰を受けることになり州庁舎でメダルを授与された。
表彰式の動画では知事と握手を交わしたあと「ウクライナの人々の支援に心から感謝します。私たちは、みなさんの支援に勇気づけられています。強さと正義は私たちの側にあります」と述べている(写真右)。
また「ロシアの軍艦よ、くたばれ」というグリボフのセリフは、ウクライナの抵抗を象徴するフレーズとして全国に広まっているという。