このブログ前々回でドネツク川渡河作戦でロシア軍が大敗した事を紹介した。損害はウクライナ側「ほぼゼロ」、ロシア側「100」という日露戦争でバルチック艦隊相手に大勝した日本海軍に匹敵する勝ちっぷりで今後、戦史に残ることだろう。
ロシアは今度のウクライナ侵攻でなめてかかって「2週間でキーフ占領」をもくろんだ。それが北部撤退を余儀なくされ、親ロシア派がいる東側の2州と先に占拠したクリミア半島側の南部、マリュウポリからの侵攻という戦線膠着状態にある。ウクライナ側は西側からの武器援助が前線に届く6月以降には反抗に出るという。
今回、世界トップクラスと言われた軍事大国ロシア軍が「あきれるほど弱体」であった事を暴露した原因はいくつかあるが、最大の原因は今に至るもウクライナで制空権が握れないことにある。最新鋭機を飛ばせばバッタバッタと撃墜されて、無惨な写真がばらまかれている。黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は地対艦ミサイルネプチューンであっけなく撃沈された。それに前述のドネツク川渡河作戦の失敗である。陸海空で「大敗」したのではもはや立つ瀬はない。
ブログ子はドネツク川渡河作戦での動画を見たが、ロシア軍の戦車に照準を表す「+」マークが点いた直後、正確に直撃弾が命中して炎上しているのが不思議だった。普通はターゲットを捉えてから後方の砲撃部隊に位置情報を連絡して射撃が始まるので「数分後」に着弾が見られるものだからだ。
その疑問にこたえる動画が5月26日のニューズウイーク日本版に掲載された。
開戦以来最も激しい戦闘ともいわれるシヴァスキー・ドネツ川の渡河防止作戦で、ウクライナのプログラマーが開発した画期的なミサイル攻撃ソフトが導入されていたことがわかった。英タイムズ紙が報じた。
システムは「GIS Arta(ジーアイエス・アルタ)」と呼ばれるもので、スマホ入力やレーダーなどによる索敵情報を統合する。さらに、この情報からミサイルを撃ち込むべき最も効果的な位置を瞬時に判断し、フィールドに展開中の各砲兵に目標を振り分けるものだ。
GIS Artaの導入で、ミサイル発射の決定から実際の発射までの時間は、従来の10分の1から20分の1にまで短縮された。従来20分前後を要していたところ、命令から1分程度で引き金を引けるまでになっている。
攻撃指令を即断化したGIS Artaは、その素早い割り当て能力から「戦場のUber」の異名をもつ。本来このシステムは列車制御に使われていた。乗車希望の顧客に対し、市街を走る車両から最も適した車両を割り当てる。これを応用してGIS Artaも、戦場に分布する自軍のなかから、最も効果的な兵器をもつ小隊に攻撃指令を割り当てるしくみだ。
ウクライナ東部では5月8日、シヴァスキー・ドネツ川に架かる浮き桟橋を渡ろうとしたロシア軍と、防衛に回るウクライナ軍のあいだで、侵攻開始以来最も激しいとされる戦闘が展開した。砲撃と空爆は2日間にわたり、最終的にウクライナ側は渡河の阻止に成功している。
ロシア側は戦車や人員輸送車など70台以上の車両を喪失したほか、少なくとも1個大隊戦術群に相当する兵力を失ったとみられる。将校・兵士含め700人前後に相当する兵力だ。
アメリカ国防契約管理局のテレンコ氏はツイートを通じ、GIS Artaアプリとスターリンク衛星通信の組み合わせが、「アメリカ軍の一般的な砲術指揮統制と比較して相当に優れたものをウクライナ軍にもたらした」との見解を示している。
このような演算システムはアメリカ軍も砲兵射撃指揮統制システム(TACFIRE)や先進野戦砲兵戦術情報システム(AFATDS)などを導入している。しかし、砲撃までの時間には雲泥の差がある。
トレント・テレンコ氏は、「米軍は指令から発射まで、第二次大戦では5分、ベトナム戦争では15分、現在では1時間を要している」「いや、書き間違いではない」と述べている。
アメリカでは友軍に対する誤射防止などのため、上層部への確認手続きに時間を要するようになっているのだという。対するGIS Artaはこの常識を覆し、常に自軍の位置を追跡しておくことで、元々20分だった工程を最短30秒にまで短縮した。ウクライナのシステムは、「意思決定」と「引き金を引く」のあいだに存在した冗長な時間を、IT化で省いたといえそうだ。
ウクライナ軍参謀本部によると、2月24日から5月30日までのロシア軍の戦闘損失は兵員 約3万350人、戦車1349両、戦闘装甲車3282両、大砲システム643門、多連装ロケットシステム205基、防空システム93基、航空機207機、ヘリコプター174機、無人航空機507機、ミサイル118発、艦艇13隻、燃料車など2258台となっている。
英大衆紙デーリー・ミラーは、ロシア軍の現状と問題点を分析した英機密報告書の内容をスクープした(5月31日)。それによると<プーチンは依然としてウクライナ東部ドンバスでの勝利は可能だと信じているが、そのために払う犠牲はロシア軍にとって重すぎる>
英国防情報部も5月30日のツイートで「ロシア軍は中堅・下級将校が壊滅的な損失を被っているとみられる」と指摘。「旅団や大隊の指揮官は部隊のパフォーマンスに対し容赦ない責任を負わされるため、危険な場所に前方展開せざるを得なくなっている」と分析している。
先述の英機密報告書ではさらに「ロシア陸軍は米欧の軍隊のように高度な訓練を受け、権限を与えられた下士官の幹部がいない。このため、訓練不足の下士官が最下層の戦術的行動を指揮しなければならない状況に追い込まれている。また、若手の専門将校を大量に失ったことは、指揮統制を近代化する上ですでに抱え込んでいるロシア軍の問題をさらに悪化させる可能性が高い」と指摘している。
さらに「ドンバスで迅速かつ決定的な勝利を収めようとするロシア軍の試みは、まだ成功していない。ロシア軍はまだ1日に1~2キロメートルずつしか前進できていない。ロシア軍は現在の2022年ではなく第二次大戦の1945年を思い起こさせる非常にコストのかかる歩兵攻撃を繰り返す泥仕合で成功を収めている」
NATOからの武器支援がこのまま続けばロシア軍はこの消耗戦に耐えられない。ゼレンスキー大統領がいうように「クリミア半島を取り戻す」ことも視野に入ってくるであろう。
プーチンの非道な戦争は世界が一丸となって「絶対に勝たなければならない」戦争である。