作られたボージョレーヌーボー騒ぎ

今年も「ボージョレ・ヌーボー」騒ぎが始まった。新聞記事によると以下のようだ。

11月17日に販売が解禁されるフランス産ワインの新酒「ボージョレ・ヌーボー」が19日、全日空機で羽田空港に到着した。輸入販売元のサントリーによると、航空輸送費の高騰で令和3年に比べ千円以上値上げ。主力商品は750ミリリットルで3850円(参考価格)となった。

ロシアのウクライナ侵攻で空輸ルートが制限されて遠回りになり、燃料費が増えた。サントリーは、今年の気候がブドウの生育に適していたとして「自然な果実の甘みが口いっぱいに広がる」と紹介している。サントリーは今年、約27万4千本、約19万2千リットル分を輸入する予定。今後、国内各地の空港に空輸される。(産経)

新聞がわざわざ全日空とサントリーの名前を挙げて宣伝の片棒を担いでいるが、実は日本の「ボージョレ・ヌーボー」ブームを仕掛けたのはこの2社である。

恥ずかしながらブログ子もその昔、この仕掛けのお先棒を担いだものである。舞台は赤坂プリンスホテル、オーナーの堤義明氏と数人の記者が恒例の懇親会を開いていた。そこで「今年のボジョレ・ヌーボー」の話になった。堤オーナーが「それはなんだ?」と聞いてきた。彼はこのワインについて知らなかったのである。ブログ子も知らなかった。

スポーツニッポンと報知新聞の記者が以下で紹介するような蘊蓄を披露した。すると堤オーナーは広報課長を呼んで「来年ここで大々的にやれ」と命じたのである。後に八景島シーパラダイス社長に転出したH課長もろくすっぽ知らなかったようだが、翌年そのボジョレー祭りに招待された。

いまでは日本一のワイン評論家として有名な田崎真也氏が当時プリンスホテルのソムリエで、彼がワイングラスで作ったタワーの上からボジョレーヌーボーを滝のように流すショーを見せられた。

 ブルゴーニュ地方のボジョレー地区は、ガメイ種のぶどうでつくる熟成のいらない早飲みワインで有名だ。ボジョレー・ヌーボーとは、ボジョレーでつくられる「ヌーボー(新酒)」という意味である。通常、ワインは9月から10月にかけて収穫をおこない、ぶどうを潰して発酵させ、しばらく寝かしてから出荷される。

この熟成期間は、品質や産地を守るために、国が地区ごとに法律で定めている。赤ワインで12~20ヵ月、白ワインでは10~12ヵ月の樽熟成が定められているが、ボジョレー・ヌーボーは、わずか数週間の熟成期間で出荷していいと決められており、その最初の出荷日が「解禁日」と呼ばれる11月の第3木曜日。

この「解禁日」に目をつけたのが日本のワインメーカーやビールメーカー。ワイン輸入商社で「目新しくて美味しくて希少」をメディアを使って大々的に宣伝した。普通ワインは船便で運ばれてくる。フランスから日本まで6~8週間ほどかかるが、1本あたりの輸送コストは僅か数十円。一方、航空便で運べば輸送期間は1日だけだが、コストは船便の何倍もかかり、1本あたり数百円~数千円になる。

それでも原価が安いものだからペイした。そこにコロナ禍が襲って、旅客がほぼゼロとなり破綻に瀕した航空会社が貨物便を使ってくれるボジョレーヌーボーに乗っかったという図式も加わってのブームなのである。

最盛期には1,000万本以上のボージョレ・ヌーボーが日本に輸入されたが、今では数百万本程度に落ちている。最盛期にサントリーは日本の輸入量の3,4割と国内最大の扱い高を誇ったものだが、上記記事によると今年はたったの約27万4千本だという。凋落ぶりがわかろうというものだ。

もともとボージョレ・ヌーボーはその年のワインの出来を確認するための試飲専用新酒である。フランスでは一本400円程度の「安酒」扱いで、解禁日に大騒ぎする市民など皆無。飲むなら他のワインという人がほとんどだ。現にボジョレーヌーボーの大半の輸出先は日本というのが現実なのである。

安いのが「売り」のはずのボジョレー・ヌーボが、上記の記事にあるように今年は3000円から4000円という高級ワイン並という値段ではアホらしくて飲めたものではない。だれでもさっさとワインに切り替えるだろう。

ブログ子は以前「1本390円」というチリ産ワインを買ったことがある。さすがに二度買いはしたくない代物だったが今ではチリ産ワインで美味しいのがたくさんあるという。山墅に駐日オーストラリア公使が遊びに来てクルマのトランクいっぱいのオージーワインを4人でがぶ飲みした。実に美味かった覚えがある。すぐ近くの山梨ワインはいまや世界でも一流のワインになった。

それほどのワイン「通」ではないが、こうした経験則としてボージョレー・ヌーボー騒ぎはもうやめたほうが良いと断言する。

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