「餃子の王将」社長射殺事件が9年ぶりにヒットマンが逮捕されるなど急進展を見せている。ブログ子は発生の直後から、「これは部落関係者が絡んでいる。捜査は長期化しことによると塩漬けになるかも」と新聞社時代の近い人には言っていたので、いま「やっぱりなあ」という思いである。
ブログ子は新人記者のとき三重県津支局に配属になった。半年もたたないうちに部落解放同盟の「糾弾」の対象になり、みかん箱の上に立たされて連日、子連れのおばちゃんや屈強の男に「お前に差別の苦しみがわかるか!」と吊るし上げられた。市役所前の50メートルほどの道路舗装が3年経ってもほとんど手つかずで、現場では数人が毎日朝からお茶をしていて工事などしている素振りはまったくなかった。この記事がやり玉にあげられた。
いわゆる同和対策事業で、仕事などしなくても毎月きちんと給料だけは支払われるという役所と解同の馴れ合いの所業であるが、当時は部落という言葉を知らなかった。新人記者にはどう対処すればよいのかわからなかったが、朝日新聞の県政担当デスクに「社会党の県議を紹介するから」と言われて、始末をつけた。
東京に移動してから編集幹部の時代また出くわした。遠藤周作がエッセーで「隠亡」と書いたのを当時言葉狩りを盛んにしていた部落解放同盟のやり玉に挙げられ、自分が不祥事対応の責任者だったのでやむなく前線で処理する羽目になった。
昔の経験が役立って、すぐ副書記長や、広報部長と会って1週間足らずで話をつけた。その夏岡山で開かれた解同の全国大会にブログ子が出席することと、新聞に大会開催の記事を書くことが条件だった。今でも全国紙の片隅にベタ記事を見かけるがそのたびに「ああ、ここもやらかしたな」とニヤリとする。幹部とゴルフもした。
ブログ子が王将事件ですぐ部落の影を嗅ぎ取った理由はいくつかあるが、今では出版禁止になっている「部落地名総鑑」の閲覧と同じことになるのと、職業差別とまた糾弾対象になりかねないので措いておくが、『週刊文春』(11月10日号)のスクープ記事にその一端をうかがい知ることが出来る。
記事では〈捜査幹部らは今、二人の男を注視している〉。一人は〈福岡を中心にゴルフ場経営や不動産業を手掛けて〉いる上杉昌也氏。部落解放同盟の〝ドン〟上杉佐一郎中央執行委員長(故人)の異母兄弟で、〈病魔に襲われた晩年の美空ひばりの後見人としても知られた存在〉。もう一人は〈「大東氏が上杉氏と創業家の不適切取引を解消したことで、大きな損害を被った王将の元幹部」(府警関係者)〉
「餃子の王将」を展開する王将フードサービス(本社・京都市山科区)では、特定企業グループへの不正資金流出が発覚し射殺された大東隆行社長(当時72)はその処理に奔走していた。王将が設置した第三者委員会によると「流出額は10年間で約260億円。うち約170億円が回収不能」というもの。
報告書には、資金流出先の企業グループ名や個別企業名、さらに代表者名も、Aとだけしか記されていない。その名を明かそう。上杉昌也氏=写真右下=。京都通信機建設工業を母体に、ゴルフ場・ホテル運営と手広い事業をしている。70歳代と高齢ながらいまだ企業グループの代表を務める上杉氏は、長年にわたり王将前経営陣と特異な関係を築いた。その役割をひとことで言えば、トラブル処理である。
例えば、王将側は1995年3月、上杉氏の関係企業から京都・祇園の5階建てビルを5億3千万円で購入していた(後に第三者に8千万円で売却)。また、同年4月には、上杉氏が関係する別の企業からハワイの高級住宅街の邸宅の土地建物を18億2900万円で購入していた(後に王将子会社に売却し、第三者に5億9800万円で売却)。
「湯水のごとく」という言葉がピッタリする異常な資金流出が、上杉グループ企業に対してなされていった。なかでも大きいのが、バブル期に贅を尽くしたゴルフ場として知られた上杉グループ傘下の福岡センチュリーゴルフクラブで、子会社を通じて約185億円が貸し付けられた。ほかにも不動産の高値買い入れなどを報告書は詳細に指摘している。
上杉昌也とは何者か――。
「(同和のドンといわれた)上杉佐一郎・部落解放同盟元委員長(故人)の異母弟です。同和運動に携わったことはないのですが、佐一郎氏が25歳も年下で、目端の利く昌也氏を可愛がったこともあり、佐一郎氏の各界への影響力を利用して大きくなった。政界、芸能界などにも人脈があります」(会社経営者の知人)。佐一郎氏とともに美空ひばりとも深い親交があったとされる。
しかし、バブル崩壊がゴルフ場やホテルなどに事業展開していた上杉企業グループを直撃、そのうえ上杉氏と関係のあった加藤朝雄氏の長男・潔氏が不明朗融資の責任を取って社長を辞任、代わって朝雄氏の妻の弟・大東隆行氏が、2000年4月、社長に就任すると上杉氏との関係の精算に入った。
それらを要因として、最後の砦となった福岡センチュリーは、11年7月、民事再生法の適用を申請、倒産した。負債総額は約425億円だった。
記事はまだ続くが、ここで思い出すのが同和に恫喝された関西電力の問題だ。関電の幹部ら20人が福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)から約3億2千万相当の金品を受け取っていたという問題だ。「同和のドン」の隠然たる力の背景には、部落解放同盟の存在があり、同和の力を利用し、差別をなくすという名目で、関西電力を恐れさせ、地元高浜町で確固たる地位を築いていった。取り込まれたら最後、言いなりになるしかないのが同和の力でというものだ。
5億8000万円で購入させたものを8000万円で引き取る、という商取引は普通は存在しないが、それを可能にさせる存在が、この殺人事件にはあるのである。逮捕されたのはヒットマンにすぎない。まだまだ大きな広がりを見せるのだろう。