10日午後0時10分ごろ、山口県周防大島沖の「センガイ瀬」付近で護衛艦「いなづま」(4550トン)が航行中に船体に大きな衝撃を受け、自力航行ができなくなった。けが人はいないが周囲約30メートルにわたり、油の膜が広がっていることから海底の岩に接触、船底を損傷し、またスクリュー2つも破損している可能性がある。
呉基地を母港とする「いなづま」は因島のドックで修理を終え、試運転をしながら基地に帰る途中。事故が起きたのは、出航してから約4時間後で、事故現場の先で折り返したばかりだった。
「いなづま」が就役したのは、2000年。アメリカの対テロ戦争の支援として、インド洋に派遣されたこともあれば、豪雨災害の時には、被災した人たちに風呂を開放したこともある。近年では、北朝鮮のミサイル・核開発で東アジア情勢が緊迫するなか、アメリカの原子力空母とともに日本海で合同演習を行ったこともある。
そんな護衛艦が“地元”とも言うべき瀬戸内海で真っ昼間に起こした事故。地元の漁師によると「1カ所ちょっと危ないというか浅い海域があるんですけど、大きな灯台があって、誰が見ても分かる目印があります。潜水艦も通りますし、タンカーも通る主要な航路だけど、みなもっと沖を通る。あそこまで寄っている船は見たことない。びっくりしてます」。
防衛省内でも「驚いた」という意見が大半だ。艦艇が航行できる深さがあるのかどうか海図で確認したり、まっすぐ進めているのか目視で確認することは、艦艇を動かすうえで“基本中の基本”である。海上自衛隊の幹部は、「何か障害物が急きょ発生して避けたなどでないならば、極めてイージーなミス。目をつぶっていたのかと言いたくなる」と語っている。
もちろん詳細は後日でないとわからないが、操船の基本ができていなかった可能性が大である。
以前このブログでは2008年2月19日午前4時7分頃発生した千葉県南房総市沖の太平洋上で海上自衛隊の最新鋭イージス艦であったミサイル護衛艦「あたご」(7,700トン)と新勝浦市漁業協同組合所属の漁船「清徳丸が衝突、船長長男の2名が犠牲になった事故を取り上げたことがあった。
不勉強な記者が各社そろって海上自衛隊側を攻めるなかで唯一、回避義務は漁船側にあった。他の漁船はみな舵を切った中で「清徳丸」だけ直進していることから漁網の整理に気を取られての不注意だ、と書いた。
ブログ子はヨットに乗るので「4級船舶操縦士免許」を持っている。5トン未満の船を操船するのに必要なものだ。自動車免許も持っている。陸と海では少し操縦(操船)方法が違うのでこのくらいはわかるのだ。
2014年01月16日、広島県沖の瀬戸内海で海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船「とびうお」が衝突し2人が死亡した事故。翌2015年12月広島地方検察庁は、事故の原因は、衝突1分前から「とびうお」が針路を右方向に変えたことが原因とし、「おおすみ」艦長らは衝突を予測できなかったと判断し、おおすみ艦長と航海長を不起訴処分とし、とびうお船長も容疑者死亡により不起訴とした。
以上は自衛艦側の過失が小さいケースだが、一方でこのところ自衛艦側の過失が大であるケースが増えている気がする。こちらが重大である。
●1988年7月23日横須賀港沖で、海上自衛隊潜水艦「なだしお」(乗員74名)と遊漁船「第一富士丸」が衝突し、釣り客・乗員30名が死亡、17名が重軽傷を負った。海難審判では、双方「同等の過失」とされた。一方、刑事裁判では、なだしお側に主因があると認定したが、第一富士丸側にも過失を認め、双方の責任者に執行猶予つきの有罪判決。
●2020年2月8日、高知県沖で海上自衛隊の潜水艦「そうりゅう」と香港船籍の貨物船「オーシャン・アルテミス」が衝突した事故。運輸安全委員会によるとは潜望鏡で洋上を見る露頂と呼ばれる作業のため浮上した際、ソナーで探知した貨物船の放射音や乗員が確認した航行音を、遠くのコンテナ船のものと誤認し、浮上の妨げとなる船はいないと判断していた。
●2022年5月22日午後3時45分頃、海上自衛隊横須賀基地から出港中の護衛艦「じんつう」(2000トン)が、停泊していた掃海母艦「うらが」(5650トン)の右舷中央部に衝突した。けが人はなく、浸水や油漏れもなかった。
今回の「いなづま」の場合、断定せずともお粗末さが際立っていると思う。憂うのは海上自衛隊の艦艇乗組員の操船技術が落ちてきているのではないかという点だ。計器が発達してきて、陸上のクルマの無人操縦が現実になってきているように海上でも機器任せが横行しているのではないかと心配する。
JALでジャンボ機のパイロットをしていたD氏と親しかった。前の東京五輪のときにブルーインパルスが国立競技場で五輪の輪を描いたがこのとき「黄色」を担当し「戦後の名パイロット3本の指に入る」と言われた人だ。
彼は「離発着はともかく、事前に通過ポイントを入力しさえすれば操縦席の上に足を上げてコーヒー飲んでいようが(機器の上で水分は禁止されている)うたた寝していても正確に目的地にいく」と言っていた。同じことが海上でも行われているのではないかと危惧する。