ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)は日本時間22日、決勝が行われ、日本が前回覇者の米国を3―2で破り、2連覇を果たした2009年大会以来3大会ぶり3度目の優勝を飾った。1次ラウンドから7戦全勝でMVPには大谷翔平が輝いた。
その瞬間、世田谷の自衛隊中央病院の待合室にいた。いつもなら早く呼ばれたいと思うのだがこの日は、逆で。他の人どうぞお先に、との思いだったが、8回登板したダルビッシュが一死から昨季本塁打王のシュワーバーに右中間へのソロ本塁打を喫し1点差に詰め寄られたところで名前を呼ばれてしまった。医師が「どうでした?」と体調を聞いて来たので「今、1点差に詰められた」と言ったら、笑って大方を来週に回して開放してくれたので、劇的な最後を見届けることができた。
決勝戦は投手戦で見応えがあった。 2番手で3回から登板した戸郷 翔征は、先頭のトラウトをフォークで空振り三振。その後2死一、二塁としたが、前の打席で先制ソロを放っているターナーを再びフォークで空振り三振に仕留めるなど、2回を投げて無安打無失点に抑えた。米野球ファンの間で「ピッチングニンジャ」として有名な投球分析家のロブ・フリードマン氏は、ターナーを空振り三振に仕留めた映像とともに「Shosei Togo, Filthy 85mph Splitter」(えげつないスプリット)と紹介した(スポニチ)という。
2点リードの8回にダルビッシュが6番手で登板。シュワーバーにソロを浴びて1点差に迫られるも、最少失点に抑えて大谷翔平に繋いだ。診察室の前のテレビには自衛隊員を含む人の輪ができていた。先頭打者に四球を出したが、続く1番ベッツを二ゴロ併殺打に仕留めると、エンゼルスの同僚の2番トラウトには160キロの速球を連発して空振り三振でゲームセット。テレビの前では拍手が起こった。
試合前、選手が集まるロッカールームで栗山英樹監督から「翔平、お願いします!」と声をかけられると「1個だけ、憧れるのを辞めましょう。憧れてしまったら超えられない。今日は僕たちは超えるために来た。トップになるために来た。今日1日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう。さあいこう!」と気合を注入したという。
大谷翔平のこの一言で、皆奮い立ったという。大谷ばかりでなく今回の「侍JAPAN」には「大和魂」が目立った。ラーズ・ヌートバー選手の異常な人気沸騰は、彼に「大和魂」の発露を見たからだろう。メンバーに入ったときは「ヌートバー、WHO?」という扱いだったが、回を重ねるごとに人気が沸騰した。
ブログ子が気に入ったのは両親とアメリカ暮らしで英語しか話せない彼が、日本人の母親に一所懸命「君が代」を習ってきたというエピソードからだ。。試合前の国歌斉唱では母・久美子さんから習い歌詞を覚えてきたという「君が代」を他の選手の誰より一生懸命に歌っているのがヌートバーだ。来日後に覚えた日本語で一番好きな言葉は「キョウダイ」だという。
試合前の円陣で声出し役に指名されると、輪の真ん中に歩み出ると、片膝を立てて身を乗り出しチームメートに語りかけた。
「キョウダイとして家族として残り6試合。昨日の夜で緊張は解けてる。今日は自由に動き回りましょう」。 締めは両手の平を大きく広げて手振りをつけながら日本語で叫んだ。「ガンバリマス! さぁ、行こうー!!」
スタンドからの大声援に応え、帽子を取って深々と四方に頭を下げる。この日一番大きな“ヌーイング”が送られたヒーローインタビューのお立ち台では、右拳を突き上げて日本語で「ニッポンだいすき!みんなありがとー!」と絶叫し大歓声を浴びた。
メジャーの試合でも見せるコショウをひくパフォーマンス「ペッパーミル」でベンチを盛り上げたのもヌートバーだ。ここのパフォーマンスが大谷から始まり侍ジャパン、そしてファンにも浸透。日本の結束の証として、チームに勢いと勇気を持ち込んだ。
ダルビッシュ有がヌートバーへの思いを明かす。「異国の地でやるっていうのは難しいことなんですけど、そういうことを全く感じさせず、自分からこの国、チームに対して飛び込んでやる、という気持ちが見えますし感じるので……。僕たちもその勇気であったりパワーをしっかりもらっているなと思います」
ダルビッシュ自身もイランと日本の両方にルーツを持ち、現在はアメリカで活躍している。異文化の壁を乗り越える難しさを理解した上で、その壁をいとも簡単に乗り越え、自ら心を開くヌートバーの気概を感じ取っている。
「大和魂」は何も純粋の日本人特有というものではない。古い話だが、元WBA・WBC世界スーパーライト級王者、藤 猛(ふじ たけし、本名:ポール・タケシ・藤井)は日本語を話せないれっきとしたアメリカ人である。しかも米軍属であった。
しかしリングで勝利するや片言の日本語で「オカヤマのおバアちゃん、(僕が勝った瞬間を)見てる?。ヤマトダマシイね。勝ってもかぶってもオシメよ」と言ったものである。でもちゃんと、「大和魂」と「勝って兜の緒を締めよ」は伝わって日本で流行語になった。
決勝戦はもちろん面白かった。栗山監督などが言うように、大谷翔平が九回表にマウンドに上がり、エンゼルスの同僚で「現役最強打者」のトラウトを三振に打ち取った「夢のような対決」も素晴らしかった。が、野球としてしびれたのは準決勝のメキシコ戦での源田壮亮(西武)の「源田の1ミリ」と「源田の背走キャッチ」という超ファインプレーだ。
七回は一塁走者のメキシコ・トレホが好スライディング、セカンドの源田がきわどくなったタッチを決めて、三振併殺に仕留めたプレー。一度はセーフと判定されたが、リプレー検証で覆った。写真を見ても確かに1ミリプレーだ。試合後サッカーのワールドカップ(W杯)で話題となった「三笘の1ミリ」になぞらえ、「源田の1ミリ」と話題になった。
九回も飛球を背走して好捕した。4―5と日本が1点を追う9回一死の守備で日本の4番手・大勢が7番・トレイホに打たれた打球はフラフラっと内外野の間に上がった飛球となった。源田は背走したまま追走し落下点にピンポイントでグラブを差し出す〝GPSキャッチ〟でピンチの芽を摘んだ。
試合後のインタビューで大谷が「源田さんもそうですけど、身を粉にしてチームのために頑張ってくれている」と最敬礼した守備の要が、期待に応える好守で9回裏のサヨナラ劇を呼び込んだ。