やりたい放題 中国に対抗する「スパイ法」の構築が喫緊

北京市で日本の製薬大手・アステラス製薬の現地法人幹部の男性(50歳代)が拘束された事件。釈放どころか日本側の領事面会要求に、新型コロナウイルス対策を理由にモニター越しで行う強硬ぶりだ。習近平政権は2014年以降、国家安全法や反スパイ法を新たに制定し、外国人の監視や取り締まりを強化。スパイ行為などで拘束された日本人は計17人に上る。

19年9月の岩谷將(のぶ)・北海道大教授の場合、中国社会科学院の招待で北京に滞在中に身柄を押さえられている。岩谷氏は防衛省防衛研究所や外務省で勤務経験もあり、中国当局が訪中のタイミングを虎視眈々と狙っていた可能性が高い。アステラス製薬の場合も帰国直前の逮捕だった。

3月25日に拘束されたアステラス製薬の50歳代の日本人男性は、中国滞在歴が通算20年を超え、日系企業団体「中国日本商会」の副会長も過去に務めていた。北京の日系企業の間では有名な人物で、医薬分野を中心に中国の当局者や企業幹部とも交友が深かった。男性を知る日本人駐在員は「歯に衣着せぬ発言の人だったが、スパイ活動をしていたとは思えない。親しい中国人が当局にマークされたなど幅広い人脈が虎の尾を踏む形になったのではないか」と懸念する。

折から親中派でなる林芳正外相が訪中、秦剛外相などと会談したが「中国との間では主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、突っ込んだ意見交換を行いたい」と言った。どこが「突っ込んだ」主張なのか歯がゆいといったらない。

中国の「日本人狩り」は今に始まったことではない。ブログ子は1990年後半に中国入りしたことがある。親しかった警視庁公安関係者が「それはきっちりマークされるでしょうな」と言った。特段の情報取材などではなく、北京、上海、蘇州を回り漢詩の旅と観光が主で、キャノンがアジアヨーロッパから出るプリンターのカーボン処理工場が大連にあるので、それを見学するだけのものだった。

だが産経新聞記者というだけでマークされることは自分でもわかっていた。新聞記者の鑑だと思うが、先輩に柴田穂記者がいた。紅衛兵らによる文化大革命について、1964年に決まった「日中双方の新聞記者交換に関するメモ」で北京支局長を務めた。朝日、NHKが当局発表ものを垂れ流す中で、柴田記者一人北京の街を歩き回り壁新聞を拾い読みしてこれは毛沢東と反毛沢東派による権力闘争と看破し取材報道、為に中国を追放となった。

この時代、産経というだけで要注意人物にされたのである。気になって各地で急に振り向いて尾行のあるなしを確かめたりしたが、そんなへぼ尾行するわけもない。だが大連で確信した。夜9時ごろ女の声でカタコトの日本語で「お誘い」の電話が来た。「デーレン(大連」)をすこし案内しましょうか」といった内容だったが、この部屋に日本人がいることはフロントしか知らないはずで、ピンときた。

翌日夕方大連市内で屋台を囲んだ大人が吐き散らすエビの山を漁る子どもを見かけ写真を撮ろうとしたがやめた。中国の貧困を意識して撮影したといわれたら言い訳できない。近くの旅順で203高地など日露戦争の戦跡を見たかったがこれもやめた。軍事施設を撮影する目的と言われかねなかったからだ。

大した情報を持っていないのは当の本人が一番知っているが、それでも拘束しとけば人質交換という形で役に立つのがこの世界である。現に、中国のスパイとして人質を取っている国では、中国側と交換という形で自国民を奪還しているところもある。

中国は軍事大国への道を驀進しているが、すべてはスパイ行為で手に入れたものである。例えばステルス戦闘機「J(殲20)」はスパイか模倣かは別にしてロシアのステルス実験機MIG144が下敷きだし、2014年、最新鋭のJ-31が初めて一般公開されたがこれなどアメリカのF-35のパクリである。空だけでなく海もまたそうだ。中国初の空母「遼寧」はソ連で設計されたアドミラル・クズネツォフ級航空母艦「ヴァリャーグ」の未完成の艦体を中国がウクライナからスクラップとして二束三文で購入し、カタパルトなど大改修して空母に仕立て上げたものだ。

日本人をはじめとする外国人拘束の根拠になっている中国の反スパイ法は14年11月に施行され、最高刑は死刑だ。しかし、同法には、具体的にどのようなことをすればスパイ行為だと認定されるのかは明記されていない。その上、スパイ行為はもとより、その任務の受託、幇助(ほうじょ)、情報収集、金銭授受なども罪だとされる。

22年末には改正案が公表され、40条の現行法から71条編成へと大幅に内容が加えられた。現行法にある「国家機密の提供」だけでなく、スパイ行為が疑われる人物・組織が所有・使用する電子機器やプログラム、設備などの調査権限も規定し、「重要な情報インフラの脆弱性に関する情報」もスパイ行為の対象であると規定する。

つまり、中国当局がその気になればなんでもこの法律でスパイ罪で拘束できる便利この上ない代物である。いつの時代でも人・物・金・情報が集まるところがスパイの巣窟になってきた。モロッコだった時もあるしフレデリック・フォーサイスの映画「オデッサファイル」のオデーサ(ウクライナ)だった時もある。今世界一のスパイ天国はこの東京である。人・物・金・情報に加えてスパイを取り締まる法律が一つもないという天国である。世界中のスパイが東京に蝟集している。

 政府は12日に閣議決定した答弁書で、早稲田大や立命館大など国内の少なくとも13大学に、中国政府による「孔子学院」設置が確認されていると明らかにした。イギリスはじめ多くの国は「孔子学院はスパイ組織である」と認定閉鎖命令を出しているなかで日本だけは放置している。おかしくはないか。

日本では中国のスパイ行為は野放し。なのに、「中国の国内法に外国政府は口が出せない」などという事態があっていいものか、自明である。

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