「奇跡の脱出」を可能にしたもう一つ要因

前回のブログで、海上保安庁機と日本航空機の衝突事故で379人の乗客が18分で全員脱出した奇跡は機長とCAら乗務員の立派な働きぶりによると讃えた。その通りで間違いはないが、もう一つ日本の技術力があってのことで、海外の航空関係者の間ではもっぱらこちらに注目が集まっている。

JALはじめ日本のエアラインでは「90秒ルール」というのがあって、事故後90秒以内に乗客を脱出させる訓練が厳しく実施されている。少し航空機に詳しい人なら、「今回全員退避までに18分かかっている。間に合わないではないか」と思う向きもあろう。機種によって脱出口が違うし乗客数も違う。「90秒ルール」は定員100人程度の場合の目標と考えるのがよいだろう。379人もが無事に脱出したのはやはり奇跡には違いがない。

それを可能にしたもう一つの要因というのは「CFRP」(炭素繊維複合材)という素材である。Carbon Fiber Reinforced Plasticsといい、英語順に訳して炭素・繊維・強化・合成樹脂だ。軽量で引張強度に優れた新素材として、航空宇宙、電気自動車、風力発電、建築分野などで用いられている。

CFRPは繊維と樹脂という性質の異なる材料の組み合わせであり、繊維の配向方向や材料種類を変えることで剛性や強度を変えることが出来る。例えばアルミよりも軽く、また、方向によっては鉄以上の剛性を実現することも可能になった。

今回の事故が発生したJAL旅客機の機種はエアバスA350-900。A350は世界の航空機の中で炭素繊維複合材料の割合が最も高く、現在約570機が運航されていて、翼を含む機体の53%がこの炭素繊維複合材料でできている。 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)などによると、航空専門家らは「炭素繊維複合材料の燃焼点はこれまで航空機製造に多く使われてきたアルミニウムより低いが、これとは別に火災が広がる速度を落とす特性がある」と話す。このため、機体外部で発生した火や熱の機内進入を抑え、乗客・乗員脱出の「ゴールデンタイム」を稼いだということだ。

炭素繊維複合材料でできた航空機が全焼するほどの大型事故が発生したのは今回が初めてで、素材の安全性が初めて実際に検証されたという見方もできる。ある航空ジャーナリストは英紙テレグラフに「今回の事故で炭素繊維複合材料が火災拡大を遅らせるということが実際に確認された」と述べた。ある航空エンジニア専門家は同紙に「(旅客機に使われた)炭素繊維が熱遮断機能を提供した」と語った。

今回の事故機の「CFRP」は帝人だが、日本で最初に炭素繊維をつくったのは東レである。ブログ子の中学校の時の国語の先生の夫君が東レの副社長だったので、開発当初からこの素材のことは知っていた。年初、東レの株はさぞかし値上がりしているだろうと5日の株価を見てみたら、日経平均がかなり値崩れしている中で値上がりしていた。思ったほどでなかったのは子会社の検査データ改ざんによるものらしい。

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