「土砂に呑まれた妻子4人の葬儀で涙する夫」に慟哭す

  「寒かったね。怖かったね。すぐに助けてあげられず、ごめんね」。大間(おおま)圭介さん(42)は、最愛の妻と可愛い盛りの3人の子供たちに震える声で語りかけた。4人は祭壇の写真の中で笑っている。土砂崩れで亡くなった。

圭介さん一家は金沢市の自宅から、能登半島の突端に近い石川県珠洲(すず)市仁江(にえ)町の妻の実家に帰省し、総勢12人でにぎやかな元日を過ごしていた。最初の地震の後、圭介さんは様子を見ようと外に出た。そこへ裏山が崩れた。居間にいた妻のはる香さん(38)、長女優香さん(11)、長男泰介(たいすけ)さん(9)、次男湊介(そうすけ)ちゃん(3)がのみこまれた。

 近所の住民たちも加勢して必死に捜した。義理の兄とその長男は救出され無事だった。だが妻と我が子がいない。3日になって、温度を測れる赤外線サーモグラフィーを親戚が持ってきた。かざすと、わずかに温度が高い場所があった。

 「生きているかもしれない」。駆けつけた消防隊員や自衛隊員と一緒に土砂を掘った。4日にはる香さんと優香さん、5日に泰介さんと湊介ちゃんが見つかったが助からなかった。義理の祖父は救出後に帰らぬ人となり、義理の祖母は遺体で見つかったという。義理の両親は今も行方不明のままだ。

 14日午前11時から金沢市内で圭介さんの妻子4人の葬儀が営まれた。参列者に深々と頭を下げるなど気丈に振る舞っていた圭介さんだが、喪主あいさつでは「あのサーモグラフィーの温かさは何だったんだろう。妻と子供が早く助けてほしいと訴えていたのではないか。大切な宝物が奪われてしまった」と涙をぼろぼろとこぼした。

 はる香さんとは結婚13年目。「僕を夫として選んでくれて本当にありがとう」と感謝した。末っ子の湊介ちゃんは仮面ライダーが大好きで、石川県警の警察官の圭介さんが帰宅すると真っ先に出迎え、「高い高い」をせがんできた。まだ小さかった湊介ちゃんには「将来は何になっているかな。何だって夢をかなえられたのにね」と語りかけた。(毎日新聞1月15日)
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 ブログ子は、この記事を読んで涙あふれるのを止められなかった。最大震度7を観測した能登半島地震に幼い我が子を奪われた父親の心情は如何ばかりか。

そして、これとそっくりの場面に立ち会った数十年前の「飛騨川バス転落事件」の現場を思い出した。昭和43年(1968)8月18日午前2時11分、岐阜県加茂郡白川町地内の飛騨川沿いの国道41号で、豪雨のため立ち往生していたクルマ の列に向け土砂崩れが発生、バス2台が川の中に押し流された。死者104人を出したわが国最大のバス事故である。

この事故でブログ子は社会部記者として大阪本社からクルマで現地に派遣され、遺体安置所の「雑感」担当をした。事故の概要や原因、責任の所在などを書く「本記」に対してその他の現場状況を書く記者を「雑感」担当という新聞社用語である。

小学校か中学校かの体育館だったが、2晩めだったか、かなり身許も判明してきて嗚咽と悲鳴と線香の煙が支配している中で、目前の40代前くらいの 男性がひとつの棺の前で身じろぎもせずたたずんでいた。声をかけて驚いた。「これは家内です。あと娘2人を待ってます」という。 家族は、と聞くと「家族4人です」。息をのんだ。家族ほぼ全滅の悲劇だ。しかし、この男性は大声で泣くでもなく淡々と「神の試練です」という。仙台 で暮らしていて夫人の実家に帰っていた3人が犠牲になったのだ。言葉のはしばしからクリスチャンなのはわかったが、少し冷たいのではないかとさえ 思えた。

さらに2晩過ごした昼過ぎ。遺体はかなり流されて伊勢湾の河口近くで見つかるようになっていた。片手しか見つからなくて、自宅から持参したコップから とった指紋で名前が確認された遺族が「片手だけでお葬式をします」というようになっていた。そんな時、現場に「遺体がひとつあがった。こどものようだ」と いうニュースが流れた。私も駆けつけた。あの男性もいた。

消防団員がこどもの遺体を抱きかかえて、はるか下の岸辺に立っていた。そのときである。あの男性が「XX子!」と叫ぶと50メートルはあろうかという崖を駆け下りた。 転んだときのためにみんなが手を差し出す用意をしていたが、一度も転ばず駆けつけ、我が子を抱きしめた。周りの男がもらい泣きをするなか、この人はまた崖を登り始めた。 それにしても不思議だった。あの距離からどうして我が子と分かったのだろうか。書くのもはばかられるほど痛みが激しく、私には男女の別もわからなかった。それに4日 もたっているのに、下流に流されず現場近くで見つかったのも不思議だった。

妻子4人を亡くした珠洲市の現場と妻子3人を亡くした飛騨川の現場とのあまりの類似性に、心が揺さぶられた。自然災害の現場は常に「獰悪」(どうあく)である。人間はただ頭を垂れるしか術がない。

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