自販機の多さで分かる日本人の美徳

初めて日本にやってきたオーストラリア人の家族が街角の自動販売機に感動して「ふかひれスープ」や「コーンスープ缶」「オロナミンC」、「リポビタンD」などを飲みまわる動画をYouTubeで見た。「ほかの国では絶対見られない」と感動していた。

経済産業省によると日本国内の自販機普及台数は2021年末時点で約270万台、そのうち飲料用が8割以上を占め、その他が日用品雑貨、タバコ、食品、券売機となっている。人口や国土面積を勘案すれば日本が世界一の普及率である。

コロナ禍で急激に増えた。飲食店営業が制限されたが、需要に応じたカスタマイズがしやすく管理がラクな自販機が見直された。加えて近年は人手不足が深刻になっており、ワンオペの店で店員が手を離せないときでも、自販機なら客の方が自分で購入していってくれる。飲食業で、最も高いコストが人件費である。しかし3K仕事で働き手が足りず、賃上げ圧力も高い。ますます自販機が増えるわけである。

自販機の始まりは、1615年にイギリスの旅館経営者が発明した「正直箱」だとされる。真鍮製の箱にお金を入れるとふたが開き、嗅ぎタバコが自由に取り出せた。客の誠実さを信じる意味で「正直」と命名されたのだろう。その後、19世紀のイギリスで、書籍、切手などの自販機が考案された。券売機も登場。19世紀末ら20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ、アメリカの各地でさまざまな自販機が登場し広がっていく。

しかし20世紀になってほとんど廃れていった。理由は人心の荒廃である。以下は、かれこれ20数年前だが、ブログ子がイギリスの地下鉄で目撃譚である。

ロンドンの地下鉄のホームに置かれた飲み物の自販機の前で3人ほどで立ち話をしていた。現われた屈強な黒人の男が現金投入口を蹴飛ばしてコインを取り出そうとしていた。注意しようとしたら、「フッ!」とこちらに息を吐きかけ、威圧してガチャガチャいじっていたが金は出てこない。頭に来たのか男は自販機を両手で抱えてドン、と頭突きを食らわせたものである。自販機の鉄板がへこんでいた。

ホテルの朝食でサービス係はほとんど黒人になっていた。ミルクティーを入れるとき、温めたミルクに茶葉を入れるのか、お湯に茶葉を入れてからミルクを入れるのか、やかましく作法があって細かく注文するのだが、そんなこと知りもしない国からやってきた、チップだけ目当てのウエイターだらけになっていたものである。イギリスが植民地経営で巨利を得ていた時代の「ツケ」を今、払っていると思ったものである。

自販機は日本人の発明ではなくて欧米が先だったのに、今なお大手を振って存在できているのは日本だけである。イギリス、アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国、アフリカ…どこに行っても見かけなくなった。いずれの国も設置したところでたちまち盗難、破壊に遭うのが関の山である。世界的に見れば日本は稀に見る治安のよい国であり、それゆえ自販機が壊されもせず存在できるのである。

先のYouTubeで海外からの観光客による「日本では落とした財布のほとんどが戻ってくる!」と驚きの報告もあった。どうかと思うが、わざと財布を落としてみて、それが交番に届いていてきちんと戻ってくるまでの驚きのレポートである。身近に存在する「交番」制度のせいもあるだろうが、日本では落とした財布は7割、8割の確率で戻ってくる。そんな国はどこにもないのが現実だ。

ブログ氏の3年ほど前の体験だ。長女の家族が目黒区の自由が丘にあるのだが、訪ねた帰り財布を落とした。2,3日後に気づいたが、どこで落としたか、いくら入っていたかも記憶になく、あきらめていた。まもなく碑文谷警察から連絡があって「財布落としませんでしたか?」と聞かれた。名刺が入っていてその電話番号からたどってくれた。ご丁寧にも拾い主からの「お礼はいりません」との伝言もついていた。住所を聞き出して訪ねたが「当たり前のことですから」と受け取ってくれなかった。一方的に母の実家からリンゴを送って始末をつけた。

ありふれた街角の光景で、ほとんどの人は気づかないが、自販機はその国に「安全」と「モラル」があることの証左なのだ。

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