さすがに今回の発言は言い逃れできないと悟ったようで、静岡県の川勝平太知事が任期を1年以上残して辞意を表明した。国策であるリニア新幹線に、唯我独尊、一人勝手に異を唱えていた男の退場である。重石が取れてリニア問題にようやく光明が見えてきた。
このブログで「天誅を!」と書いてから2,3日での急転直下で、本人が辞任会見を開いた3日に、すぐにこのブログを書こうと思ったが、待てよと一日伸ばした。これまでのこの知事の行動ぶりから何かウラがあるのではないか、それを探ろうと思ったのだ。
以前書いたが、ブログ子は静岡県には特別な思いがある。斎藤滋与史知事の時代に新聞社の静岡支局長として赴任して、知事とはゴルフや県庁近くの小便横丁の居酒屋「今年竹」で酒を酌み交わす仲で、当時の総務部長、林省吾もそばにいた。彼はその後、大阪府の副知事時代に、横山ノック知事に「こんなアホとはやってられん」と辞表を出した。その意気やよし、と総務省事務次官になったときプレスクラブで激励会を開いたほどだ。次の石川嘉延知事とは、彼の選挙参謀を務めた。彼が自治庁総務部長のとき、どこでブログ子の名前を知ったか、突然訪ねてきて知事選に出るので力を貸してほしいと頼まれた。イメージカラーを黄色にしたら4期務めた最後までネクタイを黄色で通した。この3人とは毎年芝浦の料亭(女将が静岡出身)で一献傾けていた。
なので、静岡県のことは裏情報まで電話一本で知り得たのだが、それから20年以上経っている。川勝知事になってからはこちらから総務部長に電話して「広報資料など以後一切送らないでくれ」と縁を切ったこともあって、取材源が切れている。なので前々回名前を出したが小林 一哉氏の情報に頼っている。氏は川勝平太知事相手に孤軍奮闘戦ってきた「静岡経済新聞」編集長だが、その取材で裏事情が出るまで待ってみようと思ったのだ。
はたして、4日その裏事情が出てきた。
表向き川勝知事の辞任理由は4月1日、静岡県庁での新規採用職員向けの訓示で「県庁はシンクタンクだ。毎日毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち。それを磨く必要がある」と言った、とんでもない職業差別の言辞だが、実はそれ以前に、周りから川勝知事への叛旗が明らかになっていた。モニタリング会議座長からの「衝撃の裏切りに衝撃を受け、敗残を見越しての「早じまい」だというのだ。
モニタリング会議というのは、国(国交省)を事務局にした「リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議」といい、リニア中央新幹線静岡工区の水資源、環境保全に関し、科学的・客観的観点から、その状況を継続的に確認することを目的としている。
座長は元NEXCO中日本 代表取締役会長、矢野弘典氏で委員には土木工学、生物学、地下水、環境の専門家が名を連ねている。矢野氏は、川勝知事と古くから親交があり、静岡県の土地開発公社、道路公社、住宅供給公社理事長を務め、一般社団法人ふじのくに支援づくりセンター理事長を長い間、務めてたご仁である、いわば「静岡応援団長」みたいな存在で、当然、川勝知事は自分の味方だと思っていたであろう。
最近、川勝知事は、リニアの部分開業論を持ち出してきた。全通でなければ意味をなさないリニアで、部分開業論を持ち込めばリニア全体を潰すことができる。味方のモニタリング会議が川勝知事の唱える『部分開業』に加勢してくれると期待したのだろう。
ところが、3月29日開催の矢野宏典氏が座長を務めるモニタリング会議は川勝知事の期待を完全に裏切るものだった。モニタリング会議が議論する事業計画は静岡県内にとどまり、沿線全体をモニターするわけではないことを矢野座長が明言したのである。静岡部分だけの水資源と環境にしぼったことだけ検討するのでは、すでにJR東海はトンネル工事の「静岡の水」の全量戻しを約束している。環境問題も静岡部分はほとんどトンネルだから障害にはならない。川勝理屈は自然と消滅することになる。
これ以前に川勝知事は、静岡県内の地下水への影響を懸念して、「静岡県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境側へ約300mまでの区間を調査ボーリングによる削孔(さっこう)をしないこと」をJR東海へ要請していた。行政権限からも逸脱している無理難題である。
これに対しても、モニタリング会議は、調査ボーリングが県境を越えて静岡県の地質や地下水の状況を確認されることを明らかにした。委員の意見を聞いたうえで、異論反論もなく、矢野座長が調査ボーリングの実施を承認したのである。
これも川勝知事にとっては大きな誤算だった。これでは川勝知事の勝ち目はないも同然である。
ここから先は小林氏も書いていないのだが、今年になってから地元紙、静岡新聞以外の大半のメディアは川勝叩きを明白にしてきた。頭に来たのか、新聞名をあげて指弾した。例えば今回の「牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い…」発言だが、川勝知事は2日の会見でこう反論していた。
川勝知事は「職種が違うということを言っただけ。(発言の)全体の趣旨を見てほしい」と言い訳を連発。さらに「メディアのハラスメントが横行していることを憂いております」などともいったのに対し、読売新聞の記者が1日の川勝知事の発言をそのまま読み上げて「これを聞いた県民から、県の広報課に対して『農業や畜産に携わる人の知性が低いということですか。驕った考えですね』という声が多数届いているそうです」と伝えると「それは読売新聞の報道のせいだと思っています」しれっと反論。
また読売新聞の記者が「昨日知事が言われた発言をそのまま切り取ることなく、お伝えした上で県民の方はそのように取られた」というと、川勝知事は「いや、切り取られたんだと思いますね」「脈略から外れてるんじゃないですか?こういう風潮が弥漫していることに対しましては、憂いをもっております。どうしたらいいのかなと思いまして、よく考えたんですけれども、準備もありますからね。6月の議会をもってこの職を辞そうと思っております。以上です」
「切り取り発言」というのは近頃、やり玉にあがった政治家などが頻発するようになったが、川勝会見の詳細はほぼ全文記事になっているが、明らかに切り取り部分などはないことがはっきりしているにもかかわらず、このセリフである。
「我田引水」「唯我独尊」の川勝平太知事が辞意を表明したことで、着工のめどが立っていなかったリニア中央新幹線の静岡工区の建設工事が動き出す可能性が出てきた。
長野県駅(仮称)が設置予定の長野県飯田市では、飯田商工会議所の原勉会頭(74)が「一つの石が取り除かれた」と表現した。神奈川県知事、愛知県知事、山梨県知事…も右へ倣えである。
焦点は次の知事選だ。着工に賛同する候補の当選が早期開業の条件となる。川勝知事は辞めるにあたって立民の渡辺周元防衛副大臣(比例東海)に「やってくれますね」と打診したという。民主党の悪夢は菅直人と鳩山由紀夫でこりごりだ。だが、自民党は前の知事選で33万票差で大敗している。重石は取れたがまともなリーダー不足は続く。難儀な静岡県である。