JAL社長の最敬礼に見る「安全神話」の危うさ

「近ごろこれほど完璧な”最敬礼”を見たことがない」と話題なのがこの写真。

 日本航空で安全上のトラブルが5件相次いだとして、国土交通省は27日、日航に対して行政指導にあたる厳重注意を行い、来月11日までに再発防止策を提出するよう求めた際の光景だ。

 国交省を訪れた鳥取三津子社長に対し、平岡成哲・航空局長が「安全管理システムの総点検を行った上で、経営トップが率先して航空安全に対する意識の再徹底を図り、さらなる安全性向上に取り組んでほしい」とする文書を手渡した。

 鳥取氏は深々と頭を下げて受け取り、報道各社の取材に「多大なご心配をおかけし、深くおわびする。私がリーダーシップを持って、信頼回復へまい進することを約束する」と話した。

 日航では昨年11月以降、米国と福岡の空港で起きた計3件の滑走路誤進入と停止線越えに加え、機長の深酔いによる欠航、東京・羽田空港の駐機場での接触事故とトラブルが続く。国交省は24、27の両日、航空法に基づき、臨時の立ち入り検査を実施した。日航への厳重注意は、客室乗務員による乗務中の飲酒が発覚した2018年以来。

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上体をかがめて会釈することを「揖す」(ゆうす)という。お辞儀には角度がある。通りすがりの挨拶などで交わす軽いお辞儀は「会釈」でその角度は15度。学校での授業開始前などに行われ「敬礼」は30度で、視線は自分の足元から3メートル先を見る。その上は45度以上傾ける「最敬礼」で、スチュワーデスのマナー講習では「足元から1メートル先を見る」と教える。

ところが、鳥取三津子社長のお辞儀は最敬礼のはるか上を行く「90度」はある。これに匹敵するのは神前で神主が深々と頭を下げる「深揖」(しんゆう)という所作ぐらいで、一般にはまず目にすることがない。それゆえ話題になったわけだ。

話題の鳥取三津子氏は「初の女性」「初のCA出身」と騒がれて4月に社長になったばかり。1985年、今ではCA(キャビンアテンダント)というが、当時はスチュワーデスと称していた時代に東亜国内航空(TDA)に入社している。出身は福岡県久留米市。長崎の活水女子短大へ進み、TDAに採用された。TDAは後に日本エアシステム(JAS)へ社名変更するが、その後バブル崩壊で経営が悪化、日本航空に事実上吸収されてしまう(形の上では経営統合)。この頃、鳥取氏は客室訓練部訓練課の指導係という立場だった。日本航空のCAは7千人規模。対するJASは2千人足らず。

「小よく大を制す」というか、もちろん実力に加えて運もあってのことだろうが、そんな組織の「末端」から社長になったのだから「CAが社長になるなんて驚きしかない」と業界内で驚かれたものである。

ブログ子は別な面で共感した。「そうか、YS11に乗っていたのか」と。今では姿を消したが初の国産旅客機として名機の誉れ高いYS11はTDAの主力機種であった。そこでスッチーだったということはあのプロペラ機で乗り合わせていたかもしれないとの思いだ。

東亜国内航空は産経新聞の航空部を母体にスタートした。戦後日本の空は米軍の支配下にあったが、新聞社の取材合戦でセスナ機を飛ばすことから民間が参入した。やがてヘリコプターになっていくのだが、羽田には新聞社の格納庫が軒を連ねていた。そうしたこともあって民間航空機会社のスタートに当たって新聞社の航空部が母体になった。したがって大株主でもあった。

例えば北海道に取材に行くようなとき、「東亜国内航空を使え」と命ぜられたものである。株主割引券を大量に所有しているのでそうなるのだが、これが苦痛の種だった。TDAの主力機YSー11は航続距離が短く、途中、三沢で給油のため着陸する必要があった。このときすべての電源が切られるから寒風が客室に入ってくる。さらに着陸するのが札幌市の北部、丘珠飛行場である。千歳空港に直行するJAL、ANAを横目に遅いは、寒いは、よく揺れるは…である。

鳥取三津子社長もCAとして同じような体験をしていたのだろうと、妙な親近感を持った次第。

それにしても、いったいJALはどうしてしまったのか。今回国交省に呼び出された事故の内容がお粗末すぎるのである。

年明け1月2日に羽田空港で起こった海保機との衝突事故から半年足らずで、JALは国内外でトラブルを繰り返し起こしている。直近では5月23日、羽田の駐機場でJAL機同士の主翼が接触するトラブルが発生。一機は北海道・新千歳行きの便で、もう一機は乗客の搭乗前だったが、共に主翼が損傷して運航継続が不能となった。

 その2週間ほど前の10日には、九州・福岡空港で誘導路の停止線を越えて滑走路に入りかけたJAL機が、離陸のため加速中だったJAL系列のジェイエア機と、あわや衝突寸前のトラブルを引き起こしている。このほか海外でも同様の「誤進入」やパイロットの飲酒トラブルなどが多発している。

原因の如何を問わず、機体を傷つけるなんて、パイロットの恥である。翼同士がぶつかること自体、あり得ない事故である。今回の一連のトラブルはヒューマンエラーに起因するものが多い。社長が腰を90度かがめてお辞儀して謝罪したところで、おさまらないほどの大問題なのである。

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