今回影を潜めた自衛艦たたき

15日朝、広島県大竹市の阿多田島沖の瀬戸内海で、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(艦長・田中久行2等海佐、排水量8900トン)と遊漁船が衝突し、遊漁船が転覆2人が死亡した事故。

ブログ子は「今回の事故をどう見ますか」とメールをもらった。このブログをよく読んでくれている人のようで、2008年2月19日未明、当時最新鋭であったイージス護衛艦「あたご」と千葉県勝浦市漁協所属の漁船「清徳丸」が衝突。清徳丸は船体が2つに裂け大破・沈没。船主(58)と船主の長男(23)の2名が行方不明(後日死亡認定)となった事故で当ブログの亭主が書いた記事を覚えてくれていた。

NHK、民放はじめ新聞各紙がいっせいに「海上自衛隊が完全に悪い」というニュアンスの報道のされ方をされたのに対して、「メディアのミスリードだ」と書いた。4級船舶操縦士免許を持っていてすこし海上交通法と航海の実態が分かるので、見張り義務違反は双方にあるにせよ、漁船はたぶん自動操舵に入れていて網の修理などで前を見ていなかったのではないか、と推測した。ブログでは図体が大きくて小回りのきかない大型船に回避義務を負わせている現行法の矛盾も指摘した。全メディアVs我が小ブログという図式になり、当時の風潮としては珍しかったので、IT雑誌の取材を受けたりした。

翌年、横浜地方検察庁は事故当時の当直士官と事故直前の当直士官2名(水雷長A、航海長B)を業務上過失致死罪などで横浜地方裁判所に起訴、禁固2年を求刑した。2名とも起訴休職扱いになった。事故発生時に操船していない者を起訴するのは極めて異例だった上、防衛省もさっさとAの不適切な見張りを直接的要因、Bの引き継ぎ・艦長の指導不足が原因と断定して事故関係者の懲戒処分を行った。

ところがその後の裁判で、裁判所が独自に航跡を推定し「回避義務は清徳丸側にあり、漁船が事故直前に2回右転し危険を生じさせた。あたご側に回避義務はなかった以上、AとBの注意義務も生じない」として無罪判決を下した。2013年6月26日無罪が確定し、防衛省は両名を復職させることを発表している。当ブログのいうとおりになったのだ。

そうした経緯があったので今回、当ブログ子がどう見ているか、メールを頂戴したのだろう。ここ一両日の報道を見ると、前のように一方的に自衛艦が悪いという論調は見られないのは、報道関係者も前例から勉強したのだろう。「どちらに回避義務があったのか」と慎重な書き方である。防衛省側もメディアに引きづられることなく「一切を海上保安庁の捜査に待つ」として遺族への対応第一につとめているのはよかったと思う。

捜査の行方を待つしかないのだが、「漁船が輸送艦の前方を左から横切ったあと、輸送艦が追い越し、こんどは漁船が一旦輸送艦船尾から左に出て、併走するように進行。警笛が5回吹鳴した(輸送艦が危険を感知していた)あと、輸送艦左舷中央に接触、漁船があおられるように大きく傾いて転覆した」くらいは再現できるようだ。漁船が2回も航路を横切っているのも異常である。ここから先は推測だが、漁船の船長は輸送艦の船尾から右に抜けられると思ったのではないか。ところが輸送艦が危険を察知して全速後退をかけたため速度が落ちて左舷に漁船が衝突したのだと思う。

航跡図を示すとよいのだが、このブログの操作がまだよく分からず、図版のアップロードができないでいる。文章から推察してもらうより方法がないが、漁船側のミスが濃厚である。もう一度問題視しておくが、現行の海上衝突防止法では「相手船を左に見る側に優先権がある」のはともかく、ちょこまかと航路を横切る小型船を8900トンもの巨大船の方に回避義務を負わせている。大型船と小型船舶の衝突事故はこの4年間で122件発生していて64人が死傷している。いかにも多いと言わざるを得ない。これを改めないと同じような事故は再び起きるだろう。

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