東京電力福島第1原発事故後、安全性の保証をせずに大飯原発3、4号機(福井県おおい町)を再稼働させたとして、福井県の住民らが関西電力に運転差し止めを求めた訴訟で、福井地裁(樋口英明裁判長)は21日、現在定期検査中の2基を「運転してはならない」と命じ、再稼働を認めない判決を言い渡した。東日本大震災に伴う福島事故後、原発の差し止めを認める判決は初めてだ。
弁護士が用意していたのだろう「画期的判決」という垂れ幕を掲げて飛び出してきた。住民側代理人の冠木克彦弁護士(大阪弁護士会)が「関電側の経済的、商業的利益とは一線を画し、住民の人格権を守る任務が裁判所にあると宣言した格調高い判決だ」と評価した。
ブログ子は天邪鬼だから弁護士が裁判官をほめるようなケースははなから疑ってかかることにしている。新聞にある判決要旨を読んでみたが、「人格権」なるものを振りかざすこの裁判官は少しおかしいのではないかと思う。
樋口裁判長は、大地震の際に大飯原発3、4号機は安全性が保てないと指摘し、その理由として具体的には、(1)想定以上の地震が到来する危険がある(2)想定以下であっても、核燃料を冷やすのに欠かせない外部電源や給水機能が失われる可能性がある(3)事故時に放射性物質が原発敷地外に漏れないような堅固な設備がないーなどとした。
その上で「原発は社会的に重要だが、電気を生み出す一手段にすぎず、人格権より劣位にある」と指摘した上で、大飯原発の安全性は「確たる根拠のない楽観的な見通しのもとに成り立ち得る脆弱」と断じている。
安全性を検討するのは当然のことだが、この裁判長が列挙する理由は、「想定以上の地震が来るかもしれない」「想定以下でも電源が止まるかもしれない」「放射性物質が敷地外に漏れないという保証がない」という3点だが、そう断定した理由はない。これでは検証ではなく「文学」である。
2年前、関西地方の住民ら約260人が同じ大飯原発3、4号機の運転差し止めを大阪地裁に求めた仮処分申請では、大地震が起きた際に原子炉を安全に止めることができるかどうかなどが争点になった。大阪地裁は「安全基準を満たし、具体的な危険も認められない」と判断、申し立てを却下している。「安全基準を満たしている」という判断の上だ。ところが福井地裁の判断は「想定以上でも以下でも、とにかく地震で電源が失われるかもしれない」というのだから、確かに「画期的判決」には違いない。宮崎慶次大阪大名誉教授(原子力工学)が明快に断言している。
「福井地裁判決のような理由を挙げれば、全ての原発は動かせなくなる。基準地震動を下回る地震でも主給水と外部電源が断たれる恐れがあるとしているが、補助給水のシステムがあり冷却機能は維持できる。関西電力は東京電力福島第1原発事故後、外部から水や電源を送り込む装置を取り付け、原子炉を冷却する対策も十分施している。大飯原発は加圧水型で、福島第1原発とは仕組みが異なり、外部から冷却することは容易だ。判決は、原子力の素人が下した無見識で無謀なものだと言わざるを得ず、司法の威信を損ないかねない」