長い間、新聞社にいたので新しい企画を立てたり、それに伴い従前からのものを壊したりした。また幾つか新しい組織や部署をつくったことがある。幸い既存の組織や部署を壊したことはなかったが、解体した時の、人のモラルハザードや予算の難しさは理解していた。
韓国の朴槿恵大統領が死者・行方不明者300人以上を出した旅客船「セウォル号」沈没事故で国民に謝罪したとき、韓国海洋警察の救助活動がなってなかったとして海洋警察を解体すると表明した時、難しいことを断行したものだと思った。しかし、よく読むと「解体」とはいうものの新しく救助専門の部署をつくる程度のことと理解して、それならどうということはないと思っていた。
ところが、大統領の「解体」のひとことで海洋警察は早くも内部崩壊をはじめ、すっかりやる気をなくし、これをみた対岸の中国漁船が傍若無人の違法操業を繰り広げているという。
中国の環球網が21日伝えたところでは、ワタリガニのシーズンを迎えた今、中国漁船団が黄海に殺到。韓国の排他的経済水域(EEZ)で違法操業を続けている。韓国海洋警察が20日に発表した資料によると、4月16日から5月20日までに1103隻もの中国漁船が進入した。例年ならば韓国海洋警察は中国漁船の拿捕躍起になるのだが、今年は様子が違い、韓国が拿捕した中国漁船は40隻。昨年1~5月の109隻と比べると半減以下だ。その背景として、「セウォル号」沈没事故の対策に全力を注ぐあまり、中国漁船対策は事実上放棄していたところに、今回の韓国海洋警察の解体宣言。韓国国内からも改革に見せた責任逃れだとの批判も上がっているが、海洋警察の現場隊員の士気は大幅に低下。命懸けでやってくる暴れん坊の中国漁民と立ち向かう気が失せたためだという。
それを裏付けるかのように、海洋警察庁では希望退職の申請が急増、一線の職員が幹部を「無能」と非難するなど、朴槿恵大統領が宣言した解体を待たずに士気が低下している。聯合ニュースなどが23日までに伝えたところでは、勤続20年以上の職員に資格がある早期退職の申請者数は、朴氏の発言前の今月1~15日に26人と、既に昨年同期の2倍に達していた。朴氏の発言以降も退職の申請が続いている。現場で捜索に関わっている職員は、金錫均同庁長官が解体方針を「謙虚に受け止める」と表明したことに「気が抜けた」と話し、「自分の立場を守ることしか考えない金長官ら無能な首脳部は、乗客を捨てて逃げたセウォル号の船長と何が違うのか」と罵倒した。
朴大統領の一言でモラルハザードを起こす組織もどうかと思うが、隙をみてすかさず押しかける中国漁民のしたたかさも相変わらずである。組織を壊すときは、そこにいる人間の行き先を丁寧に決めてやり、プライドを損なわないようにしなければかえってマイナス反応がでるものである。キャリア官僚を処分するときなど、更迭の半年後くらいに「本庁から出される形ではあるが、実入りの良い天下り先」などを用意する。
根回しや配慮もなしの思いつきのような「解体宣言」の行き着く先である。押しかける中国漁船を見るまでもなく、組織は壊し方が難しいのである。