お気楽に「脱原発」を叫んでいる人たちは今こそウクライナとEUが追い込まれている状況に学ぶべき時だろう。
今年2月、ウクライナの親露政権が崩壊したことを受け、ロシアがウクライナに輸出する天然ガス価格を一挙に約2倍に引き上げる決定を通達した。天然ガス1000立方メートル当たりの料金をそれまでの268.50ドル(約2万7000円)から485.50ドル(約4万9000円)にするという強硬なものである。さらにロシアのエネルギー省は、ウクライナに要求していた35億ドル(約3560億円)が、期限だった7日までに支払われなかったとして、6月1日以降は天然ガスを前払い分のみ供給すると発表した。
さらにはプーチン大統領は、EU加盟諸国のうち18か国に対して書簡を送り、ウクライナがロシアの国営天然ガス大手、ガスプロムに対して滞納している代金の支払いを支援しするよう要求した。ウクライナは対抗措置としてこれまで滞納してきた代金を期限までに支払うことを拒否する構えを見せたもののガスを止められたら国がマヒするとあって、国際通貨基金(IMF)から受けたばかりの31億9000万ドル(約3240億円)を融資をロシアへの支払いにあてるという綱渡りを強いられている。
ウクライナばかりではない。EU加盟各国もいつ同じような脅迫を受けるかわかったものではない。何しろ消費する天然ガスの15%近くが、ウクライナ経由で輸送されているからだ。プーチンのさじ加減一つで欧州も、エネルギー不足に直面する恐れがあるのだ。脱原発のお手本のように言われるドイツが一番ロシアへの依存度が高いから、ロシアのさじ加減ひとつでたちまちエネルギー危機に陥る構図になっている。
上の図はロシアからウクライナを経由して欧州連合(EU)諸国に運ばれるパイプライン図だが、これは同時に各国の燃料安全保障の弱みを示す図でもある。ロシアの意向次第で国の運命が左右される図式とも言える。
ドイツは「脱原発」と「脱化石燃料」を掲げて、高額の賦課金(補助金)の大盤振る舞いをした結果、これ目当てに風力・太陽光発電ラッシュが続き、再生可能エネルギーの発電が増えすぎて、電力業界が大混乱に陥っている。経済界が『もう再生可能エネルギー支援はやめてくれ』と働きかけたが、実らなかった。ドイツの家庭向け電力料金は、21世紀に入って毎年上昇し、10年前の倍近くに達した。
日本はどうかというと、脱原発の声に押されて「全量買取」を始めたばかり。政府の価格設定は、「太陽光1キロワット時あたり42円」というもので
ドイツのほぼ2倍で、国際価格より全般的にかなり割高になっている。国際競争力の面から見てもとても太刀打ち出来ないとみられる。
ロシアからウクライナとEUへの天然ガス供給パイプラインの栓が絞られるとアジアに向かうと楽観視する向きもあるが、同時に安保上弱みを握られることになる。中国が虎視眈々とその機会を狙っているが、パイプラインを握られる怖さをわかっているのかどうか。蜜月が永遠に続くという保証などないのが国際関係なのだから。