「君たちに憎しみという贈り物はあげない」

往々にして悲劇の現場からは英雄が生まれる。パリ同時多発テロで妻を亡くした仏人ジャーナリストが、テロリストに向けてつづったフェイスブック上の文章に、共感が広がっているという。ブログ子も一読して深く胸にしみわたった。声高に叫ぶのではなく、ジャーナリストとして抑えのきいた静謐な文章で誰よりも強く訴えかけるものがある。

書いたのは、パリ在住の仏人映画ジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさん(34)。13日夜にコンサートホール「ルバタクラン」で起きたテロで妻エレンさん(35)を失った。文章は妻の遺体と対面した直後に書かれた。レリスさんは17日、仏ラジオに「文章は、幼い息子を思って書いた。息子には、憎しみを抱かず世界に目を見開いて生きていってほしいから」と語っている。

「金曜の夜、最愛の人を奪われたが、君たちを憎むつもりはない」という書き出しで始まる文章は、「君たちの望み通りに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈したことになる」とあり、「君たちの負けだ。幼い息子の幸せで自由な日常が君たちを辱めるだろう。彼の憎しみを勝ち取ることもないのだから」と、1歳半の息子と2人で普段通りに暮らし続けることがなによりテロリストに打ち勝つと宣言する内容になっている。

文章を書いたレリスさん

文章を書いたレリスさん


犠牲になった妻のエレンさん

犠牲になった妻のエレンさん



 「君たちに私の憎しみはあげない」

 金曜の夜、君たちは素晴らしい人の命を奪った。私の最愛の人であり、息子の母親だった。でも君たちを憎むつもりはない。君たちが誰かも知らないし、知りたくもない。君たちは死んだ魂だ。君たちは、神の名において無差別な殺戮(さつりく)をした。もし神が自らの姿に似せて我々人間をつくったのだとしたら、妻の体に撃ち込まれた銃弾の一つ一つは神の心の傷となっているだろう。

 だから、決して君たちに憎しみという贈り物はあげない。君たちの望み通りに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈することになる。君たちは、私が恐れ、隣人を疑いの目で見つめ、安全のために自由を犠牲にすることを望んだ。だが君たちの負けだ。(私という)プレーヤーはまだここにいる。

 今朝、ついに妻と再会した。何日も待ち続けた末に。彼女は金曜の夜に出かけた時のまま、そして私が恋に落ちた12年以上前と同じように美しかった。もちろん悲しみに打ちのめされている。君たちの小さな勝利を認めよう。でもそれはごくわずかな時間だけだ。妻はいつも私たちとともにあり、君たちが決してたどり着けない自由な魂たちの天国で再び巡り合うだろう。。

 私と息子は2人になった。でも世界中の軍隊よりも強い。そして君たちのために割く時間はこれ以上ない。昼寝から目覚めたメルビルのところに行かなければいけない。彼は生後17カ月で、いつものようにおやつを食べ、私たちはいつものように遊ぶ。そして幼い彼の人生が幸せで自由であり続けることが君たちを辱めるだろう。彼の憎しみを勝ち取ることもないのだから。

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