米大統領選の共和党予備選と民主党党員集会が20日、南部サウスカロライナ州と西部ネバダ州でそれぞれあり、共和党では実業家ドナルド・トランプ氏が、民主党ではヒラリー・クリントン前国務長官が勝利した。共和党予備選で4位に終わったジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は、選挙戦からの撤退を表明、いよいよ絞られてきた。
テレビでアメリカ通と称するコメンテーターや論説委員諸氏の解説を聞いていると、法王と喧嘩してキリスト教票が逃げる、メキシコに長大な移民阻止の壁をつくるなど無理だ、などを挙げて「トランプ大統領は実現しないだろう」とにおわせていた。
ブログ子はちょっと違うのではないかと思う。彼らは通信社やテレビのワシントン駐在体験者が多い。現地で手に入る情報は東海岸のリベラル派、特に現在では民主党寄りの意見ばかり聞きかじってきたのではないか。だから「アホなごたくを並べる」トランプ大統領など夢のまた夢と思っている。いや拒否反応を持っている。
しかし、アメリカは広い。中西部や南部では彼らワシントン駐在員にはわからないアメリカ人がいる。そうしたアメリカ人が熱狂的にトランプを支持しているのである。ブログ子とて「トランプ大統領」はむずかしかろうとは思う。しかしその場合、メキシコの「トランプの壁」などさっさと修正するだろうし、いつまでもキリスト教を敵に回す愚は冒さないと見る。そう思う根拠は、中西部テネシー州での体験である。
7年ほど前、つまりオバマ大統領が実現しそうなとき、この州の州都、ナッシュビルにいた。ブリヂストンがこの地が本社のタイヤメーカーを買収して義兄が社長をしていたのでゴルフと乗馬目当てに夫婦で出かけたのだ。義姉が仲良くしている女性と馬場馬術のことで盛り上がった。彼女は牧場主でもありすぐ近くのケンタッキー競馬場などに出かけ、ジャパンカップに持ち馬を出場させたという牧場オーナーも加わって、かなりうちとけた。
なにかの拍子でオバマの話になった。彼女が「誰か暗殺してくれないかしら」と言ったのには仰天した。ジャパンカップの男性も相槌をうち、民主党嫌い、政治を牛耳っている弁護士に代表される東部のインテリどもへの批判をしっかりと聞かされた。共和党の本拠地だから当然といえ、二人とも室内の手の届くところに拳銃やライフルを置いているのも教えてくれた。
トランプの発言は確かに過激だ。ヒスパニック系の不法移民を「レイプ魔」呼ばわりし、全体で約1100万人の違法者を追放すると公言した。「国境にすぐに壁を築く。壁には大きな美しい玄関を造り、合法者だけに来てもらう」ヒスパニック系人口は米国の人口約3億2100万人のうち5700万人に上る。彼らへの侮辱発言は票を失うことに直結するが、トランプ平気の平左である。
2009年のオバマ政権誕生時は「核の廃絶」などさまざまな理想が語られた。イラクから撤兵し、南沙諸島での中国の傍若無人に手をこまねいて「世界の警察官」を自負したアメリカを伝統の「モンロー主義」に戻させるかのような、国際政治での弱体はテネシーの片田舎やトランプにとってはどうでもよいのだ。共和党に「政権憎し」の感情が高まり、それが国民の政治家嫌いを強めているからの「トランプ強し」なのである。
「トランプ大統領」は日本にとって大変な厄災だ。東南アジアでの軍事分担など平気で押し付けてくるだろうし、日本を「東南アジアの警察官」にとってかわらせるくらいのことはしでかすかもしれない。ただ、面白いといっては何だがプロの外交官では予想もできない意外な外交手腕を見せるかもしれない。たとえば、パレスチナとイスラエルの中東和平交渉を『半年でまとめる』と豪語しているから、やってもらいたいところもある。