暗殺、拉致、拷問を常とする国々に囲まれて

マレーシア紙に載った事件直後、倒れこんだ金正男氏の姿

マレーシア紙に載った事件直後、倒れこんだ金正男氏の姿

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏(45)が13日朝、マレーシアのクアラルンプール国際空港で北朝鮮工作員に毒殺された事件。手先に雇われたとみられるベトナムとインドネシアの女2人が逮捕され、北朝鮮の工作員4人が手配された(うち1人逮捕)がまだ噴射された毒物がVXなのかそのほかのものかも特定されていない。

北朝鮮のカン・チョル駐マレーシア大使は17日深夜(日本時間18日未明)、声明を発表し、マレーシア政府に遺体の即時引き渡しを要求、さらに「われわれの許可や立ち会いもなく、一方的に検視を行った」と強く非難し、遺体の検視結果の受け入れを拒否すると強調した。そのうえ、マレーシアの対応を「(北朝鮮に)危害を加えようとする敵対勢力と結託していることを示唆するものだと政府と韓国を名指しで非難し、問題を国際法廷に提起する」と息巻いた。

殺害して目的を達成したのに、なおも遺体引き取りに固執するのはなぜか。「凌遅の刑」に処するためではないか。清の時代まで中国で行われた処刑の方法のひとつで、生身の人間の肉を少しずつ切り落とし、長時間にわたって激しい苦痛を与えたうえで死に至らす刑。歴代中国王朝が科した刑罰の中でも最も重い刑とされ、反乱の首謀者などに科された。

朝鮮もこれをそっくりまねた。例えば日本に亡命していて上海に誘い出されて暗殺された朝鮮の金玉均の例だ。彼は李氏朝鮮の改革を訴えて、朝鮮は清国から離れて独立して日本のように近代化すべきだと訴えていた。巧妙に日本から上海に誘い出されて、そこで殺され、遺体は清国軍艦で朝鮮に送られ、朝鮮の守旧派の閔(ビン)一派により凌遅の刑を受け、胴体は川に流され、首は晒され、両手と両足また手首と足首は、別々のところに晒された。頭山満や犬養毅らの有志が朝鮮から持ち帰った金玉均の衣服の一部を埋葬して、東京の青山墓地に墓がある。
北朝鮮もそっくりこの刑罰を引き継いでいる。故・金正日総書記の妹婿で、北朝鮮のナンバー2であった張成沢は、金正恩に”分派活動”(裏切り)の汚名を着せられ、2013年12月に処刑されたがその方法がすさまじい。処刑場に引き出され、総重量2トン近い機関銃が張氏に向け、90発の弾丸を叩き込んだ。原形も留めず粉々にして、さらには四散した死体を、兵士たちが火炎放射器で消し炭にして回った。判決文にある、「死んでも祖国に埋まる所がない」という文言はこういう形で実行された。

北朝鮮は金正男氏の遺体を持ち帰って、同じ凌遅の刑を完成させたいのだろう。ひどいものである。

中国では人権派弁護士たちがつぎつぎ拉致されている。よくてよろよろで釈放されるがそのまま姿を消すのもいる。中には香港から連れ出されて尋問される人権派の書店主がいる。チベット、ウイグル民族への虐待は隠しても続々と漏れ出てくるが残虐性が高まるばかりである。

ロシアも秘密警察、KGB(現在はロシア連邦保安庁=FSB)がはびこっている。 2015年2月27日深夜、モスクワの赤の広場に近い橋をウクライナ人の女性友人と歩いていたボリス・ネムツォフ氏が、背後から銃撃され死亡した。エリツィン政権で第1副首相を務め、一時は後継候補と見られていた人物で、生前はプーチン政権批判を口にしていた。

今月に入っても奇怪な事件が続いている。プーチン大統領に批判的な政治団体「開かれたロシア」の事務局長、ウラジーミル・カラムルザ氏(35)が2日にモスクワで倒れて病院に搬送されて以来、人工呼吸器につながれ、腎臓透析を受けている。何らかの物質による「急性中毒」と診断されたまま真相はやぶの中。氏は、上述のように射殺された野党指導者ネムツォフ氏とも親しかった。

日本は、こうした狂気の国々に囲まれている。地政学的に逃げようもない。つくづく難儀な立場である。

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