モンゴル人と言えば白鵬など大相撲の力士以外知らなかったが、小学館前に抗議に押し寄せた人たちを見てこんなに日本にいるのだと思い知った。
小学館の漫画について、モンゴル出身で大相撲の元横綱朝青龍、ドルゴルスレン・ダグワドルジ氏もツイッターで憤りを表明。在日モンゴル大使館も日本外務省に抗議を申し入れる騒ぎになった。
外交問題に発展したため小学館はたまらず全面降伏。チンギス・ハンの肖像画に侮辱的な落書きをした漫画を掲載した漫画誌「月刊コロコロコミック」3月号の販売中止とし、書店には返品を求め、購入済みの顧客への代金払い戻しにも応ずることにし、小学館広報室は「チンギス・ハンを敬愛する方々に改めて深くおわびします」と謝罪した。
どんな落書きだったのかわからなかったので探し出したら、なるほど歴史しらずの日本人がやりそうなひどいもので、モンゴルの人が怒るのも無理はない。漫画は13世紀にモンゴル帝国を築いたチンギス・ハンの肖像を見て問題に答えるシーンで、肖像の額の部分に男性器を模した落書きが描かれていた。
モルゴルの政府宮殿の前には巨大なチンギス・ハン像があり、大統領就任式など重要な国事はそこで行われ、像の前で宣誓する。毎年7月11日に開催される国家大祭では、政府宮殿からチンギス・ハンの皇帝旗印ツァガーン・スルデ(九柱白幟旗)を騎兵儀仗隊が中央スタジアムに招き入れ、会場に立て、大統領はその前で開閉宣言をする。チンギス・ハン生誕の日は「モンゴルの誇りの日」とされている。漫画家が少しでもモンゴル史を知っていればこんな落書きができるはずがないのである。
旧ユーゴの民族紛争をみて、なぜこんな狭いところに多くの民族がひしめいて互いに反目しているのか、日本人には理解できない。ロシアの奥深くまで攻め込んできたモンゴル人が如何に恐怖だったか。一日80キロ侵攻する騎馬民族から逃げに逃げた中央アジアの諸民族がこの地に「押し込められた」のである。
モンゴルは西ばかりでなく東の中国にも攻め込んだ。元王朝はモンゴル人の国家である。いま中国は「中華思想」を掲げて漢民族の国家と称しているが、漢民族の王朝は3000年のうちたかだか780年ほどにすぎない。異民族支配の王朝ばかりで、随・唐は鮮卑系であり、金は女真族系、前述の元はモンゴルだし、日本と戦った清は満 州族である。
そこで不思議なのが、その中国人が異民族のモンゴル人であるチンギス・ハンを公然と「中国国家の英雄」にまつり上げていることである。韓国を見てもわかる通り普通、征服された民族は激しい憎しみを持つものなのだが。
そこでまた中国人の不思議な世界観を理解しないとならない。中国では、異民族でも中国で王朝を開いた英雄はみな「中華民族」ということになるのだそうだ。だから中国人にとってチンギス・ハンは中国の英雄としてなんら不思議はないことになる。
現に昨年12月15日、中国の内蒙古省オルダスの地裁は、 チンギス・ハンの写真を踏みつけ、そのビデオを流した男を『社会の 安定 を乱した』として禁固一年の刑を言い渡している。小学館漫画の作者は知らないだろうが、チンギス・ハン信仰は現代に生きているのである。