昨日まで日本相撲協会相手に不貞腐れた態度に出ていた貴乃花親方の立場が弟子の暴行事件で一変した。当人を土俵から下ろすは、協会に出向いて説明に追われるは、謝罪するはである。ふんぞり返って姿も見せずにいた男が、平身低頭の毎日。土俵外の方が断然面白くなってきた。
親方衆は会場に出勤しなければならない決まりがある。各親方は審判や場内警備、チケットのもぎりなど何らかの仕事を担当し、運営に携わることになっている。ところが、貴乃花親方は協会へ連絡も入れずに“無断欠勤”。その後催促されて出てきたものの貴乃花親方が役員室にとどまった時間は初日2分41秒、約1分30秒、そして3目は25秒。そして4日目に「親の心、子知らず」の事件発生。
貴乃花親方は9日、日馬富士の暴行事件をめぐる相撲協会の対応に「重大な疑義」があるとして内閣府公益認定等委員会に告発状を提出した。翌日には報道陣の前で「特段変わったことはない。粛々と、淡々とやっていく」と大見えを切っていた。
親方の一人は「場所に来ないのはあり得ない。自分で協会にケンカを売っておきながら、自分で(協会から)処分される材料をつくっている。いったい、何をした
いのか」と怒りを通り越してあきれ返っていた。
そこに今度の暴行事件発生だ。春場所中日の18日、東十両14枚目の貴公俊(20)が付き人を殴った。多くの力士ら目撃者によると、取り組後の貴公俊は荒れていた。双子の弟の十両、貴源治とともに、貴乃花部屋では最年少力士だが、支度部屋に戻ると、暴言とともに年上の付き人の顔面にグーパンチ。付き人は左のこめかみやほおを腫らし、口から出血。ティッシュで口をぬぐっていたという。
発端は付き人の不注意。今場所から新十両と不慣れなこともあるが、取組の出番の時間が誤って伝わり、土俵下の控えに慌てて駆け込んだものの審判から“遅刻”を注意された末、大翔鵬に敗れて3勝5敗。怒りの矛先は付き人に向けられた。
日馬富士に殴られた貴ノ岩はいわば被害者ゆえに、貴乃花親方は「どうしてくれる」と攻めていればよかったが、今度は、加害者・被害者ともに貴乃花親方の弟子。言い訳が通るはずもなく、避けていた記者会見に現われて、
「(暴行は)事実です。確認しました」
「非常に深刻な思いです。暴力は絶対にしてはいけないということを厳しく育ててきたつもりですが、こういうこと(=暴力問題)が起こった…深刻な思いです」
「どんな理由であっても暴力をするのはあるまじき行為。(貴公俊を)土俵に上げることはできません。休場させます」
このあと、あれほど避けていた協会に出向いて事情説明や、謝罪や、理事会での処分待ちなど、事後処理に追われる哀れな立場になった。問題の役員室への出勤も、今場所初めて「全日勤務」を果たす恭順ぶり。
このブログで以前書いたことだが、なんといっても相撲界は「無理偏(へん)に拳骨」の世界である。中学や高校を出て番付の上下だけで成り立っている人間に、親方がきれいごとを言ったところで通じるものではない。世間の常識では自分の世話をしてくれている年上の付き人を殴るなど「人非人」だが角界では常識だ。そのうえ「ごっつあん」とあぶく銭の「興行」で成り立っているのだから、一親方がいい恰好したところで早晩身から錆が出てくるものだ。