近頃は「物書き」と同義語に扱われているのが残念だが、「ジャーナリスト」とは新聞記者のことである。それを生業とする者がまず第一に心がけることは、報道することが「人のため」「世のため」になるのか、という一点である。
国が設置する新型コロナワクチン大規模接種センターのウェブ予約システムに、架空の接種券番号などを入力しても予約が可能な不備があることを実証するためと称して17日、AERAdot.(朝日新聞出版)と毎日新聞がわざわざ架空の接種券番号を入力して、システムに穴があることを報道した。日経クロステックも同様に具体的な予約方法の欠陥を詳しく報じた。
これらの報道を受け、政府はシステムの一部を改修する方針を示すとともに、接種会場の運営を担当する岸信夫防衛相は18日、「朝日と毎日に抗議する」とツイート。安倍晋三・前首相も「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える」とツイートした。 河野太郎ワクチン担当相も「一部の報道で、65歳以上でない方が面白半分に予約を取って65歳以上の方の予約を邪魔し、それを誇っているかのような行動があったので、自衛隊から抗議が出されたと承知している」と語った。
極めて妥当なコメントだが、立憲民主党はじめとする野党は違った。
立憲民主党の枝野幸男代表は18日の党会合で、朝日新聞出版と毎日新聞に抗議した防衛省を批判した上で、「システムの欠陥を指摘したメディアに『早い段階で気付かせてくれてありがとう』と言うのが本来の姿だ。意味不明な対応をしている」と述べた。福山哲郎幹事長も「適当な数字を入力しても予約できる考えられないシステムでスタートした」と指摘した。
小西洋之・参院議員(立憲)は「朝日と毎日の行為は、防衛省の予約システムに問題が生じかねないことを実証するための行為と思われる」と弁護した上で、 『極めて悪質な行為』等と防衛大臣自らが断じることは適切なのか質疑したい」とツイートした。
与野党対決の構図が、マスコミの左翼・リベラルVs保守・中道対決に持ち込まれたような喧々囂々たる事になっている。ブログ子に言わせると、この構図は、本来なんでもないような日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会での座談だった森喜朗元首相の「女性が入ると話が長い」を「女性蔑視」にすり替えて寝首を搔いたときの状況と同じである。朝日・毎日の「政権批判。菅首相叩き」に立憲民主党と共産党が乗っただけである。
ブログ子の見るところこの予約システムに欠陥があることは官邸記者クラブあたりで事前にわかっていたのだと思う。それでなければ3メディアが揃ってシステム欠陥の穴ほじりを試みることはなかった。だが「まとも」なメディアは書かなかった。
岸信夫防衛相は「予約システムにおいて、不正な手段よる虚偽予約を完全に防止するためには、市区町村が管理する接種券番号を含む個人情報を予め防衛省が把握し、入力される予約情報と照合する必要がある。このようなシステムを短期間で実現するには、国民の皆さんに迅速にワクチン接種を受けていただくという観点から困難であり、そして何より、予約システムを本センターで運営するにあたり、接種対象となる全国民の個人情報を防衛省が把握することは適切ではないと考え、採用しないこととした」と説明している。
拙速を第一に優先したためシステムに欠陥があることは記者クラブでのブリーフィングで説明されたか、内部通報があって記者たちは知っていた。わざわざその欠陥をあげつらって見せたのが朝日・毎日なのだ。
産経新聞の取材に対し、毎日新聞社は「『架空の数字を入力しても予約できる』との情報があり、防衛省への取材を進めるとともに真偽を確認するため実際に入力した上で記事化した。確認作業は公益性が高いと判断した。予約はすぐに取り消した」とした。
アエラドット編集部は「今回の記事は、ワクチン接種の予約システムの脆弱(ぜいじゃく)性と、今後予約システムを使った重大な不正行為が行われかねない恐れがあることを指摘したものだ。記者はシステムを使って予約した後、すぐにキャンセルしている」と説明した。
強盗が犯行後「金は返したからいいだろう」と開き直っているのと同じ論法である。
朝日と毎日のおかげで、本来のワクチン接種を希望する65歳以上の人の接種機会が何人分かが奪われ、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為であったことは明らかである。
AERAdot.の記事にはこうある。「極論すると、悪意を持った人物が、乱数的に任意の番号を次々と入力し、全ての枠を占拠することすら出来てしまう、危機管理も何もあったものじゃない。杜撰な仕組みです。予約枠だけ占拠して、当日誰も行かなければ、大量のワクチンがムダになりかねない、まさにワクチンテロが出来てしまいます。転売を始める人もいずれ出るかもしれません」
また システムの運営会社「マーソ株式会社」の経営顧問には菅首相の盟友、竹中平蔵氏が名を連ねていた・・・云々ともある。日ごろ政権の中枢にいる「悪」として竹中平蔵叩きに躍起になっている朝日の本来の狙いがどこにあるか、ミエミエである。
AERAdot.は記事をこう結ぶ。「官邸のトップダウンで突貫工事を防衛省にやらせ、こんな雑な仕事になったんでしょうが、これで本当に一日、1万人の高齢者接種を無事にさばけるのか。官邸の“やってる感”演出のために、翻弄されるのはいつも、これまで接種を担ってきた地方自治体と国民です」(政府関係者)
まったく、「盗人猛々しい」とはこのことだ。