前回書いた能登半島地震の現地に押しかける「迷惑な輩」の続きでもあるが、自衛隊派遣を「遅い」の「逐次投入の愚」と批判するメディア、特に朝日新聞と野党党首などの「軍事音痴」の言動に辟易している。
ブログ子は軍事記者ではないが、昔で言えば「連合艦隊司令長官」にあたる海将の知遇を得て日本の安全保障が潜水艦隊で守られていることを知っている。また東富士演習場で戦車に乗ったので陸将や、防衛庁(当時)の防衛課長らとの付き合いで部隊運用の現場を見ているので彼らの発信が「愚行」であることがわかるのだ。
能登半島地震への政府の初動対応について、立憲民主党の泉健太代表は5日、「自衛隊員が逐次投入になっているのは遅い」と発言した。各紙はこの「逐次投入」発言を取り上げ、政府や自衛隊の対応を間接的に批判している。
8日の朝日新聞は「現場の部隊は2日の約1千人を皮切りに、3日に約2千人、4日に約4600人、5日には約5千人、6日には約5400人、7日には約5900人に増員した。ただ、11年の東日本大震災では発災の翌日に約5万人から約10万人に、熊本地震では2日後には当初の約2千人から約2万5千人へと、首相や官房長官らのトップダウンで増員を決めている」と書き、ご丁寧にも(太平洋戦争時の)ガダルカナル島の戦いで、部隊を小出しにして撤退を続けた旧日本軍になぞらえた補足解説して泉健太を“援護射撃”した。
軍事では、兵力を一点集中で投入する「兵力集中」が常識で、兵力を小出しにして攻撃を仕掛けた結果、敵に各個撃破される「逐次投入」とか「五月雨式」とも呼ぶ部隊運用は悪手とされる。兵站(後方支援)が不十分なのに、大部隊を一気に突入させたら、武器・弾薬、食糧の補給が続かず、最悪の場合は全滅する。ガダルカナルはやむを得ない面があってのことだが、それは措く。
軍事と災害派遣とを同一視するのには無理があるにせよ、泉健太や朝日新聞のいうようにもし数万人の自衛隊員を一気に投入したらどうなるか、能登半島の地図を見れば明らかである。
半島の先の輪島市や珠洲市までアクセスは南からのルートしかなくそれもたった1本の幹線だけである。しかも土砂崩れで寸断されている。ただでさえ大渋滞する道路に、深緑色の自衛隊トラックが大挙して押し寄せれば、大混乱に陥るのがオチだ。海路も津波と海底隆起の影響で接岸が難しい状況であり、そうなるとヘリ空輸か徒歩しかなく、輸送量は極めて限られる。現に初動の1千人は支援物資をリュックに詰めて徒歩で奥に進み被災者に食料を届けている。ホバークラフトで海上から重機を運び上げヘリで山越えして物資を奥地に運んでいるではないか。
大部隊がやっとの思いで現地に到着しても、平地が少なく、宿営スペースの確保も至難の業だろう。さらに大部隊の活動を維持するために不可欠な、食糧・燃料などの補給ルート(兵站線)の構築・確保も最重要である。これらを考えれば、1000人からスタートし、後方支援を強化しつつ、徐々に2000人、5000人、6000人と逐次投入するほうが、実に無理のない理にかなった“作戦”なのだ。
補給体制や被災地の実情も熟慮せず、単純に「1万人送れ」と喧伝するのは机上の空論で、政治的パフォーマンスとのそしりも免れない。まさに「愚将は兵隊を語り、賢将は兵站を語る」の格言そのものである(JBpress深川 孝行氏)。
自衛隊は車両の”ガス欠”に備え、自前のタンクローリーも準備して現場で燃料補給する
もっと大事なことは、1万人の衣食住から風呂まで自前で賄う自衛隊の「自己完結力」である。自衛隊をはじめ世界中の軍隊は、原野や森林などを舞台とした「野戦」への備えが大前提で、前回書いたれいわの山本太郎、立憲民主・杉尾秀哉のようにスーパーやコンビニ、弁当屋や自動販売機、さらには病院やガソリンスタンドを利用するお気楽なことは想定していない。
特に陸自の部隊は、食糧や飲料水、燃料、各種日用品はもちろん、宿営用資材や炊飯用器材、浄水器、大型洗濯機、入浴施設や医療サービス、トイレなど、「衣食住」に必要なものを、ほぼ全部自前で賄う能力を持つ。これが「自己完結力」である。加えてヘリや重機を積めるホバークラフト型の揚陸艦艇など運輸・土木工学能力まで持っている。能登半島に押し寄せる善意の押し付け型人間が無用かつ非難されるのは、単にこの「自己完結力」がないくせにやってくるからである。
岸田首相の現地入りが遅いとまで難癖つける野党とメディアもある。はっきり言えば、これも必要ないと断言できる。トップが行ったところで何か役立つことなど何一つない。神戸淡路大震災や東日本大震災、熊本大地震で学んで行政の横の支援体制が即刻、機能するようになっていることは一つの現場で全国からの名前が入った救急隊、県警が協力し合って活動している写真を見てもわかる。海外メディアは即時全国規模で機能しているこの日本の災害現場を驚異の目で伝えている。
朝日新聞と泉健太は、大嫌いなのはわかっているが、少し軍事知識を学んでから発信した方がよい。