「上げ馬神事」、このブログで指摘の通りに改善された

昨年6月、このブログで「『上げ馬神事』は馬の能力を無視した虐待である」という一文を書いた。その後、多くのメディアで批判が相次ぎ、主催者側は批判点を取り入れて大幅に改善して今年5月に実施するそうだ。書きっ放しはよくないと思うので、後日譚を報告する。

書いた要旨は以下のようなことだ。

ブログ子が新人記者の頃受け持ち区域だった三重県桑名市の多度大社で毎年5月に行われる「上げ馬神事」は毎年約10万人が見物に訪れる行事だ。約700年前の南北朝時代に始まったとされる伝統行事で、当時2度ほど現地で取材して記事にしたことがある。地元の青年が馬に乗り50メートルほど疾走したのち、高さ2メートルほどの土壁を飛び越えられた回数で、稲作が豊作か凶作かを占う。しかし、近年事故が相次ぎここ十数年で計4頭がけがをして安楽死させられた。

改善前の馬の能力を超える「死の2㍍土塁」

ブログ子は学生時代馬術をしていて障碍飛越競技に参加していた経験から、この神事は「無茶だ」とその理由を3つ挙げた。

①「700年前と現在では馬の種類がまるで違っている」こと。②「障害飛越競技としてみた場合、馬が踏み切るスペースがない」こと。③「騎手の未熟が馬の飛越を邪魔している」こと。

①については、昔の馬は現在とはまるで違う在来種と呼ばれる馬種である。保護活動のおかげで国内に少し残っている木曽駒がそれに該当する。馬体はポニーほどと小さいが、足腰が強く、武士を乗せて合戦するほど活躍を見せた。しかし、日本の馬は日清日露戦争で大改造される。旅順の203高地の戦いに見られるように、大砲を運び上げるのに馬が使われた。在来種は小さくて適さず、アラブ種と掛け合わされた馬が使われた。アラブ種というのは、映画、「アラビアのロレンス」に登場する馬で、馬格が大きく足腰が強い。ほかにもペルシュロン種などという1トン近くある馬種もある。

②多度神社では馬は50メートルほど疾走すると斜度20度ほどの急坂に差し掛かる。そこを駆け上って高さ2メートルほどの土壁を飛び越えることを要求される。在来種は走り方も違って「側対歩」(そくたいほ)という走法である。反動が少なく狭いところも駆け上がり、走り抜けることができる。これに対し現在はアラブ種や競馬場から払い下げられたサラブレッド種の大型馬である。「上げ馬神事」のコース設定は在来種向けに作られているから、後肢で踏み切るスペースもない。オリンピック競技では2㍍くらいの障碍飛越はあるが、平地での飛越である。急坂を登ってなお2㍍もの高さの土塁を飛越させるのは馬の能力を超えている。

③騎手は4月に選ばれた地元の青年が1か月ほど練習して挑戦する。だが本番にある2メートルの土壁の飛越練習はない。1か月間練習するのは振り落とされないよう鞍に座ることだけである。ブログ子が半世紀前に見たときには上り坂で早くも落馬する者がかなりいた。成功体験がないまま本番に臨んでいるのである。

馬は飛越の時大きく首を後ろにのけ反らすもので、この時騎手は前傾して自分の首を馬の首の横に付けるのだが、未熟な騎手だと落馬しかかっているから逆に馬の首にしがみつく。これでは飛越を邪魔するだけで、馬は土壁に激突するしかなくなる。最上部には振り落とされた騎手を受け止める役目の若い衆が左右に控えているので人間はケガしないが、馬は極端に狭いところに追い込まれて身動きが取れない。

以上のようなことを列挙して、「馬学」がわかる獣医学者や馬術関係者の意見を取り入れて、改善すべきだと結んだ。

その後の動きを2月22日の毎日新聞の記事で紹介する。

( 毎日新聞 )
 三重県桑名市の多度大社の伝統行事「上げ馬神事」について、大社と氏子でつくる御厨(みくりや)総代会は、昨年8月以来、斜面を緩めるなどの改善案を県に提出。獣医や馬術競技の専門家ら有識者9人を交えた会合を同10月以降、計3回開き、改善案の有効性や動物愛護にかなうかどうかを検討した22日、斜面の頂上の土壁(約2メートル)を撤去した上で5月4、5日に開催すると発表した。馬の安全のための改善措置として、専門家の提言を受け入れた。

 改善措置の検討に関わった県馬術連盟の河北浩峰理事長は記者会見で、土壁について「馬術のトレーニングを積んだ馬でも難しい高さだった」と指摘し、撤去の必要性を説明した。

「改善されすぎ」ではあるが・・・

 改善措置は他に、神事に参加する馬に斜面を事前に走らせて慣れさせることや、竹むちを廃止し、乗馬などで使われる柔らかい素材のものに変更することなどが盛り込まれた。

 平野直裕権宮司(ごんぐうじ)によると、改善措置について地元の人たちにも既に説明した。今年は3地区から9頭が参加する予定。一方、2地区は「動物福祉への配慮が足りなかったことを強く認識し、議論を深めるため」として、今年は参加しない。

◇ ◇ ◇

改善された現在の姿を写真で見ると高さ2㍍の土壁は完全になくなっていている。まるで「素通り」状態で障害物とは思えない。「改善しすぎ」とも見えるが、まあ、安全面から言えば、当面、仕方がないか。

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