谷川俊太郎が13日、死去した。92歳。死因は老衰だという。なんという素晴らしい死に方だろう。
哲学者、谷川徹三の一人息子だが、大学へ進学する意志はなく、独自の詩の世界を切り開いてきた。散文詩や、日本語の音韻性に着目した斬新なひらがな詩、はてはラジオドラマ、スヌーピーで知られる米漫画「ピーナッツ」の翻訳、アニメ「鉄腕アトム」の歌詞まで手掛けた。私生活では、劇作家の岸田國士の長女・岸田衿子、俳優の大久保知子、絵本作家の佐野洋子と3度の結婚と離婚を経験した。実に人間らしい生き方をしてきた人が、「92歳」「老衰」という素晴らし死に方で去った。見事と言うほかない。
ブログ子は平易にして明澄な彼の多くの詩を愛読してきたが、気づくのは「死」をテーマにした作品が実に多いことだ。かねがね本人も『僕は早く死にたいの。死ぬのが楽しみ』と言っていたほどだから、絶えず「死」を見つめ続けてきた達人なのである。
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『 ふくらはぎ 』
俺がおととい死んだので
友だちが黒い服を着こんで集まってきた
驚いたことにおいおい泣いているあいつは
生前俺が電話にも出なかった男
まっ白なベンツに乗ってやってきた
俺はおとつい死んだのに
世界は滅びる気配もない
坊主の袈裟はきらきらと冬の陽に輝いて
隣家の小五は俺のパソコンをいたずらしてる
おや線香ってこんなにいい匂いだったのか
俺はおとつい死んだから
もう今日に何の意味もない
おかげで意味じゃないものがよく分る
もっとしつこく触っておけばよかったなあ
あのひとのふくらはぎに
『詩を贈ろうとすることは』より
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最後にユニークな一作を紹介する。ここ数日、彼の偉大な詩作についてメディアで触れられるだろうが、絶対に掲載されないであろうゆえに取り上げる。
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『 なんでもおまんこ 』
なんでもおまんこなんだよ
あっちに見えてるうぶ毛の生えた丘だってそうだよ
やれたらやりてえんだよ
おれ空に背がとどくほどでっかくなれねえかな
すっぱだかの巨人だよ
でもそうなったら空とやっちゃうかもしれねえな
空だって色っぽいよお
晴れてたって曇ってたってぞくぞくするぜ
空なんか抱いたらおれすぐいっちゃうよ
どうにかしてくれよ
そこに咲いてるその花とだってやりてえよ
形があれに似てるなんてそんなせこい話じゃねえよ
花ん中へ入っていきたくってしょうがねえよ
あれだけ入れるんじゃねえよお
ちっこくなってからだごとぐりぐり入っていくんだよお
どこ行くと思う?
わかるはずねえだろそんなこと
蜂がうらやましいよお
ああたまんねえ
風が吹いてくるよお
風とはもうやってるも同然だよ
頼みもしないのにさわってくるんだ
そよそよそよそようまいんだよさわりかたが
女なんかめじゃねえよお
ああ毛が立っちゃう
どうしてくれるんだよお
おれのからだ
おれの気持ち
溶けてなくなっちゃいそうだよ
おれ地面掘るよ
土の匂いだよ
水もじゅくじゅく湧いてくるよ
おれに土かけてくれよお
草も葉っぱも虫もいっしょくたによお
でもこれじゃまるで死んだみたいだなあ
笑っちゃうよ
おれ死にてえのかなあ