こりゃダメだ!『ルー石破!』の施政演説

年明け、比較文学の大家で、東大名誉教授の畏友から「イギリス名詩選」(川本皓嗣著 岩波文庫)が送られてきた。シェークスピアから近世までのイギリス人が愛してやまない92編の名詩集だが、目で読むだけでなくネイティブが韻を拾い抑揚をつけて味わっているように、「音読み」を意識して、「二重母音」とか時代背景の解説までついた優れた著作だが、とりわけ原詩と並んでいる彼のすばらしい和訳に惹きつけられた。

長年の取材生活で数多くの英語使い、仏語使い、露語使いを見てきたが、優れた人ほど、日本語使いの名手である。ロシア語の名通訳者にして、エッセイスト・小説家である米原万里(故人)はロシア語で「こんにちは」を何というか問われて「ズロース一丁」と言えと教えた。ブログ子は露西亜語を専攻したので少しわかかるのだが、「Здравствуйте(ズドラーストヴィチェ)」は確かにこれで通じる。笑い話のようだが至言である。

名詩に浸っていい気分になったところで、ひどい悪寒に襲われた。石破首相の施政方針演説なるものを読んでしまったのだ。

「少数与党ですから野党の皆さんから『そうだよね』と言われる環境をつくっていかなければならない」などと卑屈、且つ、回りくどい「石破構文」と呼ばれる嫌な物言いには日ごろから鳥肌が立っていたが、今回の施政方針演説でもまずコチンと来たのは、「楽しい日本」を目指すというくだりだ。なんか日本をディズニランドのようにするようなイメージで国民に日本の国柄を世界にどう示すかという姿勢が感じられない。お気楽な目標に加えて、今回とりわけ目立った特徴はやたら横文字が羅列されていることだ。曰く――

「わが国の独立と平和、人々の暮らしを守り抜くためには、バランス・オブ・パワーに常に最大限の注意を払い…
合衆国の地域へのコミットメントを引き続き確保せねばなりません」

「新しい日本を創る上で、『サステナブル』で『インディペンデント』であること、すなわち持続可能で自立することを重視しなければなりません」

「リスキリングについては、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、スタートアップ(新興企業)などの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに」

「欧米のトップクラス大学の誘致によるグローバルスタートアップキャンパス構想の実現、さらには、税制による大企業とスタートアップの協業によるオープンイノベーション支援に取り組みます」

いやはや、ひどいものだ。国民の胸にグサッと刺さるどころか、バカじゃないのと反発を呼ぶのが必至の横文字羅列である。まあ歴代首相でも役人の下書きにちょっと自分の言葉を足してお茶を濁す程度のものが多いから期待はしないが、これはひどすぎる。

今に残る尾崎行雄の桂内閣弾劾演説、「彼らは玉座をもって胸壁となし詔勅をもって弾丸に代へて政敵を倒さんとするものではないか…」を見習えとまでは言わないが、国語力ゼロの石破演説は群を抜いてひどい。

2024年の衆院選で初当選した無所属の中村勇太(はやと)衆院議員=茨城7区=が、25日自身のXを更新してこの石破演説に対して、議場から「誰かがヤジで『ルー石破!』って叫んでてクスッとしてしまった」と、日本語と英語が混じった独特の「ルー語」で人気のお笑いタレント・ルー大柴にひっかけたヤジに笑ったと明かしている。さもありなん。

50有余年の新聞記者生活で、原稿を書かせて、やたら横文字を入れる者には「これをきれいな日本語に変えろ」と指導してきた。世間一般を見渡しても「出来の悪い者ほど横文字を使いたがる」ものだ。いま、断言できるが「我が国の首相はデキが悪い」。

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