大阪市生野区で2018年、聴覚支援学校に通う井出安優香(あゆか)さん(当時11)が重機にはねられ死亡した事故。一審では将来得られたはずの「逸失利益」を健常者の85%と算定されたため、遺族が控訴した大阪高裁(徳岡由美子裁判長)の控訴審で、20日、平均賃金の85%とした一審・大阪地裁判決を変更し、健常者と同額を認めた。
=大阪市北区で2025年1月20日午後1時43分、井手千夏撮影.jpg)
生まれつき重い難聴があった安優香さん。小学校の「自主勉強」には毎日欠かさず参加した。通信教育で使うタブレット端末は、使い方を教わらなくても自由に使いこなしていた。事故直後、まだ意識があり手話で「あ・ゆ・か」 と名乗ったという。
母さつ美さんは、涙を拭いながら、裁判官に感謝の言葉を伝えた。「安優香の気持ちを代弁して、自然と口から出た」と記者会見で明かした。「私の不安を安優香が全部解消してくれた。できるよ、分かるよっていう姿をたくさん見せてくれました」。
安優香さんの写真を持って大阪高裁に向かう父の努さん
当たり前の判決で、大方の人は「良かった」と思うと同時に、一審の大阪地裁判決は「アホ、ちゃう?」と思ったはずだ。だが日本の裁判所ではこうした浮世離れした法律論議がいたるところで繰り返されているのが実情だ。
法的な争点から言えば、「逸失利益の算定」方法である。両親側は約6100万円を求めたのに対し、被告の運転手側は「障害があると進学や就労に困難が伴う」などとして、60%が相当だと反論していた。
23年2月の一審判決は、安優香さんには十分な学習意欲や周囲の支えがあり、難聴を補う音声アプリの普及やテクノロジーの進展といった社会の変化を踏まえれば「様々な就労可能性があった」と判断したものの、一方で「聴覚障害が労働能力を制限しうること自体は否定できない」として全労働者の平均賃金の85%が相当だと算定した。控訴審で、遺族側は全労働者の年間平均賃金を基礎とすべきだと主張した。
高裁判決では、平均賃金で逸失利益を算定することに「顕著な妨げ」となる事情はなく、減額する理由はないと結論づけた。やっとまともになったのである。
同じく、常識にそぐわない裁判が昨年末あった。シンガー・ソングライター、さだまさしが昨年12月16日産経新聞に「法律、バカじゃない?『194キロ暴走』事件、危険運転論争への疑問」と正論を述べていたが、素人の方がマトモな時がある。

(要旨)
一般道を時速194キロという尋常ならざる速度で暴走し、衝突事故を起こして相手を死亡させてしまったら当然「危険運転致死罪」が適用されると思う。弁護側の「真っ直ぐの道路を走ることが出来たのだから自動車を『制御』出来ていて、危険運転ではない」という主張は誰が聞いてもおかしい。制御出来ないから事故を起こしたのだろうに。
このニュースを聞いた僕のスタッフが思わずため息をついた。「法律、バカじゃない?」。誠に同感。裁判官、弁護人、検事、被告を乗せてその道路を時速194キロで走って見てから裁判を始めると良い。
当初この事故は「過失運転致死罪」として裁かれ、後に「危険運転致死罪」とされたが量刑は危険運転致死罪としては短い部類の懲役刑だった。一方この9月、埼玉県川口市では時速100キロ超の速度で一方通行を逆走した車が衝突事故で相手を死なせたのに、その道路の法規上の扱いからか「過失運転」で決着している。誠に法律とはややこしいもののようだ。
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ブログ子は地方記者時代の「名張毒ぶどう酒事件」から社会部記者時代含め、数多の事件・事故現場と裁判を見てきた。「おかしな裁判」も数多くあった。書き連ねれば本の一冊、二冊ぐらい書けるほどだ。
裁判でなく”事件”だが、四日市南署で繊維工場の女子寮で事件があった。3,4人に犯されたという。スワッ強姦事件と思ったら、何番目の男は知っている人で強姦ではないと当人が言う。記者クラブの何人かとデカ長が刑事訴訟法を広げて「研究」したこともある。
これなど、まだご愛敬だが、裁判所も弁護士も重箱の隅をほじくり返す法律論に明け暮れるよりも「常識」第一に、まっとうな判断をしてもらいたいものだ。
*タイトルは文中にある、さだまさしの「法律バカじゃない?」からもらいましたが、関西では「バカ」より「アホ」が一段と格上なのに鑑み、表題のようにしました。