ハンガリー日本女性死亡事件 日本大使館の責任を問う

日本の外務省はエリート臭だけ旺盛で鼻持ちならない。表題の責任うんぬんの前にまず事件のあらましを書く。

日本女性(43)の遺体が1月29日、ハンガリーの首都ブダペスト中心部の焼け落ちたアパートで発見された。火災を通報したのは、子どもたちに会うために現地を訪れていた元夫だった。捜査当局は当初、女性のベッド上での喫煙が火災原因であることを示す痕跡があったとして、事件性はないと発表した。

しかし、女性の友人たちは、日本女性は非喫煙者だったと証言。訴えを受け、女性の権利を擁護するNGO「パテントアソシエーション」は、日本女性から2023年に法的支援を求められて連絡を取り合っていたとして、警察の結論に疑問を提起。「徹底的な捜査」を要求した。

同NGOは1日、「彼女は長年にわたり元夫から虐待を受けており、元夫を恐れていた。子どもたちを連れて生まれ故郷(日本)に帰りたがっていた。元夫はハンガリーに居住していなかったにもかかわらず、女性が子どもを連れて日本に帰ることに同意しなかった。女性は元夫から脅迫されていると何度も警察に通報していたが、取り合ってもらえなかった」と訴えた。

この後、警察の姿勢は一変する。2月3日に女性の遺体を解剖し、“暴行の形跡”を確認した。さらに事件当日の午前中に子どもたちと一緒にアパートを出た後、服を着替え、目出し帽で顔を隠して現場に戻っていたことを突き止めた。元夫はその後、女性を殺害していったん現場を離れ、再度服を着替えて現場に戻ってから緊急サービスに火災を通報していたことも監視カメラから判明した。

警察は4日、殺害容疑で元夫(43)のアイルランド人の男を逮捕したと発表した。女性と容疑者の間には、子どもが2人いる。取り調べに対し、元夫は犯行を否認、女性とは25年前に米国で出会い、2002年に結婚し、複数の国々を転々とした後、2013年にハンガリーに定住したと供述。2020年に関係が悪化し、自身はオランダに移住。こどもが2人いるが、2023年に離婚したと主張している。

調べでは、、女性は2回、警察に元夫からの被害を訴えたが、警察は「これはハンガリーでは犯罪でも何でもない。ばかげている」と取り合わなかった。女性は昨年11月には元夫から「痛みとともにゆっくりと死ねるだろう」と殺害をほのめかすメールまで受け取ったが、その時も警察は対応しなかったことも分かった。

離婚した元配偶者からの付きまとい被害の典型的なDV犯罪だったのに馬鹿げた警察の対応には現地で強い批判が起きて、パテント協会が8日に開いた追悼集会では数百人のデモ隊が当局への抗議の声を上げた。

とうとう警察は11日に、「我々の対応は誤っていた」と謝罪し、過去1年に捜査を打ち切ったDV事件の再調査を進める方針を明らかにした。ハンガリー政府の報道官も12日、SNSで、「今回の悲劇で不足している部分が数多く見つかった」とし、DV対応の改革を始めるために、警察官に研修を義務づけ、DVにより専門的に対応できるようにする対策を行うことを明らかにした。

警察に不手際があったことは明らかだが、素早く修正して幹部の処分まで行ったことはまだ救いがある。

しかし、さらに深刻なことが明らかになった。この日本人女性がブダペストにある在ハンガリー日本大使館に助けを求めていたにもかかわらず、適切に対応しなかったことが明らかになったのだ。

2月10日、同大使館は「2022年6月くらいに当館は(女性から)元配偶者との関係について相談を受けました。『もしDVがあるような場合には警察に相談するのがいい』と説明したと(記録では)なっています」と話した。

大使館から行けと言われた警察でも相手にされなかった女性は、翌2023年に元夫と離婚した。その後2024年に女性はもう一度大使館を頼っている。

「24年夏くらいにお子様の旅券(パスポート)発給についての相談を受けています。その際には、未成年者の旅券発給には共同親権者である元配偶者の同意が必要であると説明しています。その後(女性からは)お子様の旅券申請は当館にはなされていません」(大使館関係者)

何と言う薄情な対応か。(帰国に必要な子供の)パスポート発行にはDVを受けている元夫の同意をとれというのである。

日本は離婚した夫婦の一方が子を連れて国際的な移動をすることで起きる紛争への対処を定めた「ハーグ条約」の締約国である。同条約の規定を基に大使館は元夫の同意が必要だと伝えたのだが、そもそもDV被害を訴え子どもと一緒に逃げたいと考える女性が、加害者である元夫から同意を取り付けることは非現実的である。改めようとの動きはあるが、まだ成文化されていない。

在ハンガリー日本大使館のトップは小野日子(ひかりこ)大使である。菅義偉政権下の2021年から内閣広報官を務め、外務広報官も歴任した日本政府のイメージアップ広報の第一人者だ。

しかしその反応はと言うと、「今回の事件が発生して以降、大使館としてもご遺族のご支援等には当たっており、ご意向も踏まえつつできる限り丁重なご支援を行なっていきたいと考えています」と答えた。

岩屋大臣は「大変痛ましく、改めて心よりお悔やみを申し上げたい。DV被害などの相談が寄せられた際は、個別の事情や要望を踏まえて必要な支援を行っている。遺族の意向も踏まえ、引き続き、できるかぎり丁寧な対応や必要な支援を行っていきたい」。

ともども紋切り型もいいところだ。

とかく役人と言うのは自分で問題を解決するのではなく、他の部署に振り向ける癖がある。幼児虐待を受け付けた児童相談所などがほかの部署に回したり、「大丈夫だと思った」などと言って責任逃れする例がそうだ。

だいぶ前だが、ブログ子はロンドンで航空会社のBOAC(現在のBA)主催のパーティーに招かれた。私たち取材団の歓迎会のようなものだったが、招かれた日本の駐イギリス大使館一等書記官がピアノに肩肘付けてワインを傾けながら鷹揚な態度で会社側幹部などの挨拶を受けているのに腹を立て、帰国後、外務省に名前を挙げて文句を言ったことがある。まるで己が主催のようにふるまっているのが許せなかったからだ。

ハンガリー警察は非を認めて謝罪して幹部を処分した。日本大使館員も同じく処分すべきだろう。でないと殺された女性が浮かばれまい。

大使館の最大の任務は社交などではなく、邦人の保護、この一点である。


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